だけどブレスレットを奪っていったあの人は、わたしの名前を一度も呼ばず、別れ際にだけ「ごめんね、榊さん」と他人行儀にそう言った。
あの人は、蒼生くんのフリをした別人だ。もしかしたらあの人が、体育のときに蒼生くんが外したブレスレットを盗っていったのかもしれない。
そんな人が着けたブレスレットに惑わされてしまったなんて、わたしはバカだ。
ブレスレットなんて、蒼生くんを判別するためのただの保険で。そんなものに頼りすぎてはいけなかったのに。
「蒼生くん、他の女の子から告白なんてされてないよね」
「されてないけど……。急に、何?」
「わたし、蒼生くんと別れてないよね」
「だから、急に何? 別れてたら、おれが困るんだけど。ほんとに、何あった?」
怪訝そうに問いかけてくる蒼生くんの首筋に頭をくっつけて、すりすりと首を振る。