ああ、このひとが、ほんとうの蒼生くんだ。
そう確信したら、胸が詰まっていっぱいになって。抑えきれなくて。わたしは目の前の彼に、無我夢中で飛びついた。
「え、は? 柚乃?」
首に回した両腕で、しがみつくようにぎゅーっと抱きつくと、耳元でめちゃくちゃ動揺する蒼生くんの声が聞こえてきて。愛おしさに、泣きたくなった。
「ごめんなさい……。目印、間違えて取られちゃった……」
「え、何の話?」
蒼生くんにしがみついたままズビッと鼻を啜ると、彼が遠慮がちにわたしの背中を撫でてくれる。シャツの上から伝わってくる蒼生くんの手のひらの温度に、どうしようもなく安堵した。
蒼生くんに名前を呼ばれて、蒼生くんに抱きしめられたことで、教室の前でわたしに別れを告げてきた人が違和感だらけだったことに今さら気付く。
付き合いだしてからの蒼生くんは、わたしに話しかけるとき、まず最初に名前を呼んでくれる。
突然声をかけられたら、顔が認識できないわたしが誰に話しかけられているのかわからなくて一瞬混乱するからだ。
蒼生くんはたぶん、自分が蒼生くんだってことをわたしに知らせるために、意識的に名前を呼んでくれている。それはお互いを名前で呼び合うようになる前からずっと変わらない、蒼生くんの気遣いだ。