しばらくして激情の波が少し収まると、わたしはとぼとぼと廊下を歩き始めた。

 フラれて悲しくて苦しくても、家に帰らないといけない。沈んだ心と、カバンがやけに重かった。

 肩からずり落ちてくるカバンを引き摺りながら、廊下の角を曲がる。トスン、トスンとカバンを引きずって階段を降りていると、そのあいまに、ペタン、ペタンと上履きが床を弾く音が聞こえてくる。

 トスン、ペタン、トスン、ペタンと交互に響いてくる音をぼんやりと聞き流しながら歩いていると、途中でペタンの音が止まった。

 トスン、トスン。足元だけを見つめて、一段ずつカバンを落としていると、「柚乃?」と語尾上がりに誰かがわたしを呼んだ。

 ドクンと胸が鳴る。

 ゆっくりと視線をあげると、ワンフロア下の踊り場に立つ明るい茶髪の男子生徒がこちらを見上げていた。

 わたしのほうが高い位置にいるから、背の高さはよくわからない。捲った袖から伸びた日に焼けた腕に、青のブレスレットは見当たらない。だけど、少し汚れた上履きの踵は、かなり年季の入った感じでしっかり踏み潰されていた。

 階段の手摺りに手をかけてこちらを見上げた彼が、茶色の髪を揺らして首を傾げる。


「柚乃? どうした?」

 優しい声で名前を呼ばれて、全身にブワーッと一気に鳥肌がたつ。