『柚乃は、時瀬くんのどこが好きなの?』

 陽菜の言葉が脳内でリフレインして、わたしの胸をチクチクと容赦なく突き刺してくる。

 わたしは、蒼生くんの何が好きだったのだろう。

 考えようとすればするほどよくわからなくて。だけど、蒼生くんのことを考えると胸が苦しくて、涙が出た。

 ぽたぽたと床に涙を零しながら、勝手に溢れてくる涙の意味に気付いてせつなくなる。

 泣いたって、どうにもならないけど。蒼生くんは戻ってこないけど。

 どこがとか、何がとかじゃない。

 ブレスレット(目印)をがないときちんと判別できなくても、わたしは蒼生くんのことが好きだった。

 わたしの名前を呼んでくれる優しい声とか、躊躇いなく繋いでくれる大きな手とか、笑っているのかなって感じたときの彼の纏う空気とか。そういう、ぼんやりとしてて、うまく判別できない蒼生くんの全部が好きだった。

 好きだったし、今も好きだ。

 手の甲をぐっと瞼に押し付ける。世界から隔絶されたみたいに静まり返った放課後の廊下で、わたしは声を押し殺して泣いた。