「じゃあな」
「あ、蒼生くん……!」
素っ気なく背を向ける蒼生くんを呼び止めたけれど、彼はわたしを置いて走って行く。
廊下の角を曲がっていく彼の後ろ姿は、背格好も走り方も蒼生くんと似ていた。
廊下に取り残されたわたしは、ひとりきりで途方に暮れてしまう。
わたし、蒼生くんにフラれた……、んだよね?
蒼生くんと付き合ってからずっと身に付けていたターコイズブルーのブレスレット。それがなくなった左手首が、なんだかスースーして心許なかった。
好きな人にフラれるのって、付き合っていた人と別れる瞬間って、こんなにもあっけないんだ。
蒼生くんと一緒に過ごした一ヶ月間が、急に夢みたいに思えてきて。空虚感に苛まれる。
陽菜には大丈夫だと見栄を切ったくせに、結局すべて、あの子の言うとおりだった。
ブレスレットでしか蒼生くんのことを判別できないわたしは、彼に切り捨てられてしまった。
最後の別れの瞬間ですら、目の前にいるのが蒼生くんかどうか判別のつかなかったわたしは、蒼生くんの何を知ってて、何を見ていたのだろう。