蒼生くんは、本気なんだ。本気で、わたしとはもう付き合えないと言っている。

 蒼生くんは、一刻も早くわたしとの関係を断ち切って、ブレスレット(目印)がなくても好きだと言ってくれる別の子のところに行きたいのだ。

 ぎゅっと唇を噛むと、左手首に付けたターコイズブルーのブレスレットに右手の指をかける。外したくはないけど、外さないわけにはいかない。

 泣きたくなるのを堪えてブレスレットを外すと、のろのろとした動きでそれを蒼生くんに差し出す。

 一歩距離を詰めてきた蒼生くんから、柔軟剤だろうか、少し強めの石鹸の香りが漂ってきた。

 ドキッとして顔をあげると、蒼生くんがわたしの手からブレスレットを攫っていく。そのときに軽く触れた手の感触に、またドキッとした。

 胸が小さく震えたのは、ときめいたからじゃない。近付いてきた蒼生くんの香りにも、指先に触れた少し湿った彼の手の感覚にも、わたしにはまるで馴染みがなかったからだ。