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生徒指導室に連れて行かれた蒼生くんは、なかなか戻ってこなかった。
スマホを触って待っているうちに、教室からは人がいなくなり、廊下から誰の声も聞こえなくなる。しんと静まり返った教室でたったひとり席に座っていると、誰もいない世界に隔絶されたような気がする。
蒼生くんは大丈夫だろうか。すぐ話をつけてくるとは言っていたけど、山崎先生相手に苦戦しているのかもしれない。
心配になってラインを開いてみるけど、蒼生くんからの連絡はまだきていない。
生徒指導室まで様子を見に行ってみようかな。
迷いながら腰を浮かせかけたとき、廊下からペタペタと床を踏み鳴らす音が聞こえてきた。
蒼生くんが戻ってきた。
ほっとため息を吐くと、勢いよく立ち上がる。
机の横にかけていたカバンをつかんで教室を飛び出したとき、ちょうどドアのところで明るい茶色の髪をした男子生徒と鉢合わせた。
身長はわたしのプラス20センチくらい。見上げたときの感覚を確かめてから、彼の足元に視線を落とす。その上履きの踵は、ちゃんと踏んづけられている。
いつも見慣れている上履きよりは白さが目立ち、若干新しいような気もするけれど……。気のせいだろうか。



