「蒼生くんは見間違えられただけで、やってないし、逃げてもないんだよ」
「どうして時瀬くんがやってないってわかるの? 時瀬くんなら、窓割って黙って逃げるくらいやりそうじゃん。ほんとうは自分が犯人でも、やってないって平気で嘘つけちゃいそう」
何を言っても皮肉って反論してくる陽菜に、さすがのわたしもムカついた。
陽菜と仲直りしたかったし、気まずくもなりたくなかったのに。蒼生くんのことを悪く言う陽菜のことが心底嫌になってくる。
「陽菜はどうして蒼生くんのことを否定ばっかりするの? 何も知らないくせに、蒼生くんのことを勝手に決めつけるような言い方してほしくない」
きつい口調でそう言うと、陽菜がぎゅっと眉間を寄せる。この状態では、陽菜との仲直りなんて絶対に無理だ。
陽菜の次の言葉に備えて身構えていると、彼女の後ろから蒼生くんとよく似た色の茶髪の男子生徒が近付いてきた。
背格好も似ていたから、一瞬、蒼生くんかと思ってドキッとする。けれどその人は、踵を踏まずにきちんと上履きを履いていた。
「江藤さん、そろそろ帰ろうよ」
陽菜の肩に手をのせて呼びかける男子生徒の声は、蒼生くんより少し高めな気がする。誰だろう。
いつもわたしとばっかり一緒にいる陽菜が他の人に——、それも男の子から話しかけられるのは珍しい。
陽菜が男子から告白の呼び出しを受けているところは何度か見たことがあるけど、今声をかけてきている男子の目的はそういうのとは違う気がする。



