昼休みに険悪な雰囲気になったあと、無言でわたしから離れて行ったのは陽菜のほうだった。
しばらく口も利いてもらえないと思っていたから、陽菜から話しかけてきたことに驚いてしまう。同時に、少しほっとする気持ちもあった。
陽菜に蒼生くんへの気持ちを否定されたことは納得できないけど、中学からの親友とこのまま気まずくなってしまうのは嫌だから。
「陽菜、あの……」
「さっき時瀬くんが山崎先生と揉めてたみたいだけど。何かあったの?」
仲直りの道筋を開こうとしていたわたしに、陽菜が質問をかぶせてくる。
「時瀬くん、また何かしたの?」
続けて、温度の低い陽菜の声が耳に届いてドキッとさた。
てっきり仲直りするために話しかけてきてくれたのかと思ったけれど、わたしの思い違いだったのかもしれない。陽菜の訊き方には蒼生くんへの嫌悪と敵意が滲んでいた。
「蒼生くんは何もしてないよ」
「何もしてないのに、どうして山崎先生に注意を受けてたの? 時瀬くん、生徒指導室に呼び出されてるんでしょ」
「そうだけど。全部、誤解なんだよ。昼休みに中庭でサッカーしてた生徒たちの誰かが、窓にボールを当てて、ひびを入れたのに、黙って逃げたんだって。それを目撃していた人が、逃げた生徒のひとりを蒼生くんと見間違えたみたい」
「やっぱり、時瀬くんて素行悪いんだね」
陽菜がそう言って、ふっと息を吐くように笑う。陽菜の笑い方は、きちんと話も聞かずに蒼生くんのことを疑った山崎先生と同じだった。
わたしの知っている陽菜は、見た目の印象だけで人のことを悪く言ったり非難するような子じゃないはずなのに。蒼生くんのことにだけ拒絶的な陽菜の態度が、わたしには理解できなくて悲しい。
どうして陽菜は、ここまで蒼生くんのことを嫌っているんだろう。



