踵の潰れた上履きで床を鳴らして歩いていく蒼生くんの背中が少しずつ遠くなり、廊下の角を曲がって見えなくなる。
蒼生くんはすぐに話をつけてくると言っていたけど、ほんとうは少しだけ心配だ。
わたしは「やっていない」という蒼生くんの主張を信じるけど、山崎先生は蒼生くんのことをハナから疑ってるみたいだったから。
まだ付き合い始める前、蒼生くんは自分が髪の色とか目付きの悪さとか、見た目で悪い評価をされがちだと言っていた。
蒼生くんはそのことを何でもないことのように話していたけれど、見た目の印象で他人から勝手な評価をされ続けて、何も感じないはずがない。何でもないフリをして話せるようになるまでに、たくさん傷付いて悲しい思いをしていたはずだ。
わたしにその話をしてくれた蒼生くんは、どんな表情を浮かべていたのだろう。もし笑っていたのだとしたら、とても切なくて悲しい。
蒼生くんのことを考えながら、左手首につけたターコイズブルーのブレスレットにそっと触れる。
下を向いていると、「柚乃」と横から誰かに呼びかけられた。
声のしたほうを振り向くと、小柄な女子生徒がそばに立っている。彼女の耳元で金色の星のピアスが光って揺れていて、すぐに陽菜だとわかった。