「本当に時瀬じゃないのか? 逃げて行った生徒のなかに、時瀬がいたという証言を聞いたんだが」
「違います。今日の昼休みはずっと校庭でサッカーしてたから、中庭には行ってません。ていうか、誰がおれを見たって言ってるんですか?」
「二年の女子生徒と菊池先生だ。廊下を歩いているときに、中庭を走っていく時瀬を見たらしい」
「また菊池かよ。それ、絶対にあいつの見間違いだろ。あいつ、おれのこと嫌ってるし」
目撃者が国語科の菊池先生だと聞いて、蒼生くんの敬語が崩れて口調も荒くなる。
蒼生くんは、前回のテストのときに菊池先生からカンニングの濡れ衣を着せられていて。それ以来、菊池先生のことをよく思っていないのだ。
曰く、蒼生くんみたいに悪目立ちするタイプの生徒は菊池先生のようなルールや規律を押し付けてくる真面目なタイプとは相性が悪いらしい。
「先生のことを呼び捨てにしたり、あいつなんて言うな。窓ガラスのことだって、時瀬の普段からの態度が招いた結果だろ」
「それ、どういう意味だよ。いつも勝手に人のこと見た目で決め付けんのはそっちだろ。何度も言うけど、窓にボールをぶつけたのはおれじゃありません!」
「だけどな、目撃者の女子生徒も菊池先生も、時瀬だったと思うって言ってるんだぞ」
「思う、って……。そんな曖昧な証言でおれのこと疑うんすか?」
「曖昧だとはいえ、ふたり以上の人間が時瀬だったと思うって言ってるんだ。まず、お前に話を聞きにくるだろ。だいたいな、時瀬。お前、体育のときも、外せって言ってるのに腕にチャラチャラしたもの嵌めて全然外そうとしなかったよな。疑われて怒る前に、まず日頃の行いを改めろ」
「それと窓のことは関係ないですよね? ていうか、窓にひび入れたのはマジでおれじゃないんで」
「時瀬だとしてもそうじゃなかったとしても、言い訳は生徒指導室で聞かせてもらう。ついてこい」
山崎先生が有無を言わせない声でそう言って、生徒指導室へと促すように蒼生くんの背を押した。