「蒼生くん……」

 控えめに呼びかけたら、山崎先生が一瞬わたしのほうを見た。

 高い位置から見下ろしてくるふたつの目には鋭い光が宿っていて、思わずビクッと震えてしまう。慌てて下を向くと、山崎先生の視線はわたしから蒼生くんへと戻っていった。

「時瀬、今日の昼休みにサッカーしてたよな」

「してましたけど……」

 山崎先生に問われた蒼生くんが、そっぽ向いて面倒臭そうに答える。蒼生くんの背中に隠れるようにして話を聞きながら、わたしは嫌な予感に胸が騒いだ。

 昼休みの蒼生くんの行動を確認する山崎先生の聞き方に、何か意図があるような気がする。そっと視線をあげると、案の定、山崎先生の口元が歪んだ。

「そのとき、中庭側の廊下の窓に思いきりボールを当てただろ。窓にひびが入ったのに気付いて、その場にいた全員で逃げたよな」

「は? それ、おれらじゃありませんけど」

 山崎先生の話に、ほんとうに身に覚えがないのだろう。蒼生くんが心底不快そうな声で、即座に否定する。

 だけど山崎先生は、それでは納得してくれなかった。まるで蒼生くんを犯人だと決めつけているみたいに、次々と彼のことを疑うような質問を投げかけてくる。