「時瀬、ちょうど今、お前に用があってきたところなんだ。話があるから、ちょっと来い」

「え、なんすか?」

「身に覚えがあるだろ」

「ありませんけど」

「ちょっと待て、時瀬」

 肩で避けて進もうとする蒼生くんを、先生が引き止める。

「だから、何なんすか? おれ、今から帰るところなんで」

 蒼生くんが少し反抗的な言い方をすると、山崎先生の眉がピクリと引き攣った。

「そうやって、また都合の悪いことから逃げるつもりだろ」

「逃げるんじゃなくて帰るんですけど。ていうか、またってどういう意味ですか?」

 蒼生くんが、気怠そうにため息を吐く。その態度が山崎先生を逆撫でしたのか、眉根を寄せた先生の苛立ちがわたしにまで伝わってきた。

 山崎先生の表情はわからないけど、あんまり余計なことを言わないほうがいいような気がする。