学校の中でも外でも、蒼生くんはわたしの手を繋ぐことをあまり躊躇わない。

 なんとなく近くにいたクラスメートたちの視線を感じたけれど、わたしの手を引いて歩いていく蒼生くんの背中は堂々としていて。繋いだ手のひらに感じる彼の熱にドキドキする。

 踵を踏みつぶされた蒼生くんの上履きを見つめてうつむき気味に歩いていると、教室を出たところで「時瀬」と誰かが呼び止めてきた。

 同世代の男子の声じゃない。おとなの男の人の低い声だ。

「うわ、山崎……」

 蒼生くんの嫌そうな声で顔をあげると、彼の前に白Tシャツにジャージ姿の肩幅の広い大きな男の人が立っていた。

 わたしは担当してもらったことがないからあまり知らないけれど、体育科の山崎先生らしい。生徒たちから怖いと噂されているだけあって、蒼生くんの前に立ちはだかる山崎先生には威圧感があった。

 山崎先生の迫力に圧されるように、蒼生くんが一歩後ろに下がってくる。

 ぶつかりそうになった蒼生くんの背中をそっと押し返すと、同じタイミングで山崎先生が彼の肩にバシッと強めに手を置いた。