「蒼生、くん……?」
「やっぱり、あれがないと不安に思うよな」
確かめるように語尾上がりに名前を呼ぶと、蒼生くんが左手首を触りながら下を向いた。
「ごめん、柚乃。おれ、目印のブレスレット、失くしたっぽい……」
蒼生くんからの謝罪と報告に、胸がざわついた。
「失くした、って……?」
「六時間目の体育のときに、邪魔になるから外せって山崎に注意されたんだよ」
山崎というのは、主に男子の体育を担当している先生だ。生徒指導もやっていて、生徒にも厳しい。強面で、見た目も怖いのだと陽菜や蒼生くんが言っていた。
「もしかして、没収された?」
「いや。外さないなら没収って言われたから仕方なく外して、更衣室のロッカーに置いたんだ。なくならないように、ロッカーの奥に入れといたんだけど授業終わったらなくなってて……」
「そう、なんだ……」
「ずっと着けとくって約束したのにごめん。やっぱり、外すんじゃなかったな」
「でも、外さなかったら没収だったんでしょう?」
「そうだけど。まさかなくなるとは思わねーじゃん。使ってたロッカーの周辺見たり、近くで着替えてたやつにも聞いてみたんだけど、見つかんなくてさ。見落としてるかもしれないから、今からもう一回探してこようと思ってる。だから、柚乃は今日、先に帰ってていいよ」
「一緒に帰らないの?」
「ごめんな」
わたしに謝りながら、蒼生くんは少し心許なさげに、何もついていない左手首を右手で触っていた。