「そんなことないよ!」
机をバンッと両手で叩いて立ち上がると、さすがの陽菜も一瞬怯んで肩を窄める。
「そんなこと、ない……」
さっきと違って、少しも勢いのない声でつぶやいてから、腰をおろす。
咄嗟に陽菜の言葉を否定したけど、わたしが蒼生くんを見分けるために青いブレスレットに頼っていることは事実だ。
そばに近付いてきた男の子の左手首に、自分が付けているのと色違いのブレスレットが付いているのを確認すると、ほっとして、胸がぎゅっとなる。でもそれは、目印のブレスレットに反応しているわけではじゃなくて、蒼生くんだからだ。
目印をつけてくれれば誰だっていいわけじゃない。
「ごめん、柚乃。嫌なこと言って」
下を向いて黙ったわたしに、陽菜が静かに謝ってくる。
「でもね、わたしはずっと気になってたんだよ。目印がないと時瀬くんのことを判別できないくせに、柚乃は時瀬くんの何が好きなんだろうって。時瀬くんだって、今は柚乃のこと好きって言ってくれてるかもしれないけど、目印がなくても自分のことを好きって言ってくれる別の子が現れたら、その子のことを好きになっちゃうかもよ?」
「わたしも……、わたしだって、目印がなくても蒼生くんのことが好きだよ。人混みの中から見分けろって言われたら難しいけど、そうじゃなくて一対一なら、ブレスレットがなくても蒼生くんを他の人とは間違えない」
「絶対に? 100%間違えないって自信ある?」
「…………」
陽菜に意地悪く問いかけられて、答えに詰まる。