明るい茶色の髪、シャツの袖を捲った手首に付けた青のブレスレット、踵の潰れた上履き。ペタペタと床を鳴らしながら遠ざかっていく蒼生くんの背中を見つめていたら、すぐそばで陽菜が盛大にため息を吐いた。

「あーあ。幸せそーな顔しちゃって」

「べ、別に……。普通の顔だよ」

 からかいとも嫌味とも取れそうな陽菜のボヤキに、反射的に顔が熱くなった。

 たしかに、陽菜がそばにいるにも関わらず、去っていく蒼生くんの後ろ姿をじっと見つめすぎた。だって、後ろ姿や歩き方はもちろん、蒼生くんが上履きで床を踏み鳴らす音ですら好きなんだから仕方ない。

 恥ずかしさを誤魔化すように、蒼生くんが置いていったいちごミルクのパックから乱暴にストローを引っ張ると、顔中に陽菜の視線を感じる。

「なに?」

「別にー。そんなに名残惜しそうに時瀬くんの後ろ姿を見つめるなら、わたしのことなんて気にせずにサッカー観に行けばよかったじゃんって思って」

 別に、と前置きしながらも、思ったことをしっかりと伝えてくる陽菜の声は、少し不貞腐れている。

「陽菜が行かないなら行かないよ」

「どうして? 時瀬くん、柚乃に断られてちょっと残念そうにしてたよ」

「そうなんだ……」

 わたしが見に行くって言えば、蒼生くんは喜んでくれたのかな。でも、な……。