「なんか、急に恋愛上級者っぽいこと訊いてくるじゃん。柚乃だって、一ヶ月前は浮いた噂ひとつなかったくせにー」

「ひな、いひゃい……」

「柚乃ー」

 拗ねた声を出す陽菜を笑っていたら、横から名前を呼ばれた。その瞬間、陽菜がわたしの頬をぎゅっとつねって離すから、「い、った……!」と、つい本気の悲鳴が漏れる。

 ヒリヒリする頬を撫でていると、ふっと笑う声が聞こえて、腕に青いコードブレスレットを付けた手がわたしの机に紙パックのいちごミルクを置いた。

「蒼生くん」

 手首の目印を確かめてから顔をあげると、机の横に立った蒼生くんの明るい茶色の髪がふわりと揺れた。笑いかけられているような気配に笑い返すと、机に置かれたいちごミルクのパックの角を指で弾くようにして蒼生くんの手が離れていく。


「それ、食堂のお土産」

「ありがとう。お昼、食堂で食べてたの?」

「あー、うん。武下が今日は弁当ないって言うから」

「そうなんだ」

 蒼生くんとは週二で一緒に下校するし、毎日ラインで話しもするけど、休み時間はお互いに友達と一緒にいることが多いから、たまにこんなふうに話しかけてもらえたときはすごく嬉しい。

 ふわふわした気持ちで机のいちごミルクに手を伸ばすと、廊下のほうから「蒼生ー」と男子の声がした。

 蒼生くんと一緒に声が聞こえてきたほうを向くと、数人の男子が廊下の窓から身を乗り出していた。そのなかのひとりが、片手にサッカーボールを持っている。