「時瀬くんて目付き悪くてちょっと雰囲気が怖いし、中学のときは不良だったとか、女の子に暴言吐いて泣かせたとか、そういう噂が多々あるんだよ。こないだも、テストのときにカンニングがバレたらしいじゃん」
蒼生くんと付き合うことになったという報告をしたとき、陽菜はどこ情報かわからない蒼生くんの悪い噂をたくさん口にした。
どこまでが本当でどこからが誇張された嘘なのかわからないけど、陽菜が教えてくれた悪い噂のほとんどがわたしの知っている蒼生くんのイメージとは一致しなかった。
カンニングの件だって、蒼生くんは勘違いで濡れ衣を着せられただけだ。
「時瀬くんは、そんなふうに悪い噂をされるような人じゃないよ。わたしの初彼氏なんだから、もっと祝ってくれてもよくない?」
わたしがわずかに不満を示したら、陽菜は不機嫌そうに腕を組んで「おめでとー」と、全然気持ちのこもっていない祝福の言葉をくれた。
わたしと陽菜は、これまで意見が合わなくてもお互いを否定することはなかったし、ケンカをすることもなかった。それなのに陽菜は、わたしと蒼生くんが付き合いに関してだけはしつこく食い下がってくる。