表情はわからなくても、些細な仕草から時瀬くんのドキドキする気持ちがはっきりと感じ取れて、わたしまでドキドキした。
声を出したら、心臓が口から飛び出してきそうで。コクコクと精一杯必死に頷くと、目の前で時瀬くんが笑う気配がする。
「おれのことも、蒼生でいいから」
「蒼生、くん……」
死ぬほどドキドキしながら名前を呼んだら、蒼生くんの唇が楕円の輪郭の中で綺麗な弧を描いた。
わたしの網膜が捉えるのは、薄くて形の良い、綺麗な唇だけ。それしかうまく捉えられないことを、ひどくもどかしく思う。
わたしが名前を呼んだとき、蒼生くんはどんなふうに笑ったんだろう。
想像ですら思い浮かべることのできない蒼生くんの笑顔は、きっと胸が切なくなるくらいに綺麗なはずだ。