俺は真那花に恋をしている。彼女が初めて試合を観に来てくれた、あの日からずっと。

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「修斗、応援席にいるあの子誰?可愛くね?」

 中学1年生の6月、南山校で行われた練習試合。君はそこに現れた。鼻の下を伸ばした哲也が、誰だ誰だと騒いでいた。

「俺のクラスの子」
「え、まじで!?誰!?」
「平原真那花」
「真那花ちゃんか」

 その時の君とは話したこともなかったし、ときめきのひとつも俺は持っていなかったから、淡々と答えることができた。

「真那花ちゃん、なんで応援きてるんだろ?」
「さぁ。部に誰か、仲の良い奴でもいるんじゃん?」
「えーっ。彼氏?」
「知らねえよ」

 そわそわする哲也を見れば、彼が恋に落ちたことが容易くわかった。それなのに。

「修斗くーん!頑張ってー!」

 試合中、君が叫んだのは俺の名前。

「修斗くんファイトー!」

 話したこともないただのクラスメイトを、君は懸命に応援してくれた。だから気になってしまった。
 シュートを決めては君の反応をうかがって、ハーフタイムは顧問の肩越しに君を見つめて。終始笑顔の君が愛おしいと思った。


「俺頑張ってみようかな、真那花ちゃんのこと」

 その日の帰り道。茜色の空を見上げながら、哲也が言った。

「応援してよ、修斗」

 大切な友人の恋を応援する。その選択をするのに時間を要さなかったのは、俺の今日抱いた感情など一時的なものだと勘違いしていたから。

「おう、頑張れ哲也」

 それが誤算だと気付いたのは、哲也と真那花が付き合ってすぐだった。