そしてあっと言う間に追いつかれ手を掴まれた。

「みゆ、話を聞いてくれ」

「離してください」

錑は慌てて手を離した、健志から過呼吸の事を聞いていたからだ。

「健志から聞いたんだが、俺の元に戻らないって本当か?」

私はしばらく黙って下を向いていた。
そこへ北山先生が二人の間に割って入った。

「立木さんは東京には戻らない、錑一人で帰ってくれ」

その時錑は私に自分の気持ちを伝えた。

「みゆ、俺と一緒に東京へ帰ろう」

錑は私にむけて手を差し出した。
この手を取れば錑と一緒にいられる、でも私の存在は錑の負担になる。
私は錑から視線を外し北山先生の背中に隠れた。

錑は目を伏せて手を下ろした。
そして私に背を向けて、北山先生に「みゆを頼む」そう言い残してその場を去った。

診療所に待機していたゆかりさんは、一人で戻ってきた錑に声をかけた。

「なんで立木さんを連れてこなかったの?」

「しょうがねえだろ、俺はふられたんだから」

「錑、本気で言ってるの?」

「みゆは自分の事より、俺のことを考える女なんだ、だから自分が我慢してでも、俺を優先する、今、みゆは俺と一緒にいる事を望んでいない」

「そんなこと言ってたら、健志に取られるわよ」

錑は黙ったままだった。
錑はわかっていた、北山先生が私に好意を抱いていることを……

「女はいつでも側にいてくれる人を好きになるのよ」

「ゆかり、帰るぞ」

「もう私の忠告無視?」

二人は島を離れた。