「そうでしたか」

北山先生は恥ずかしそうに下を向いた。
私は北山先生の勧めでしばらく入院することになった。
入院中、北山先生を訪ねてくる患者さんが途切れることがない。

「北山先生、腰が痛くてなんとかしてくれんかのう」

そう言って診療所を訪ねて来たのは、この島にずっと住んでいるとよさんだった。

「とよさん、湿布を出しておくから、しばらく貼って様子見て?」

「北山先生、いつもすまんのう」

「大丈夫ですよ」

ここは待合室から海が見える診療所である。

私はこの景色がとても気に入った。

入院中の患者なのにいつも待合室から海を眺めていた。

「お嬢さん、見かけない顔だね、北山先生の彼女さんかい?」

そう言って私に近づいて来たのは、診察を終えて待合室で湿布を待っていたとよさんだった。

「ち、違います、入院患者です」

「そうかい、わしは、とよ言うやけど、お嬢さんはなんて言うんじゃ」

「立木みゆと申します、ちょっと貧血が酷くて、北山先生に入院を進められて」

「そうかい、貧血なんぞ病気のうちに入らんよ、うまいもん食っていっぱい動けば大丈夫じゃ」