どうして宇佐美不動産のご令嬢が私を訪ねて来たのか全くわからなかった。

「どうぞ、お座りになって」

「はい、失礼します」

私は麗子さんの向かいのソファに腰を下ろした。

「短刀直入にお話致します、錑様と私は結婚いたします、ですから錑様と別れていただきたいの」

やっぱりあの貼り紙は本当だったんだと確信した。

「調べさせていただきました、今錑様のマンションに錑様と一緒にお住まいのようですが、すぐに出て行ってくださる?そしてこの会社も辞めて頂きたいの」

錑のマンションを出て行くことは理解出来るが、会社まで辞めなくてはいけないなんて、私は途方に暮れた。

「引っ越しの費用と当面の生活費は、錑様との手切金としてお渡しするわ、ですからもう錑様に近づかないでくださる?」

そう言って封筒を差し出した。
急な出来事に戸惑いを隠せなかった。

「わかりました、マンションはすぐに引っ越しします、仕事もすぐに退職願いを出します、でもこのお金は受け取れません」

そう言って封筒を返した。

「頭の良い方で助かりましたわ、まさかとは思いますが、錑様と結婚しようなんて思っていなかったでしょうね、社長夫人に自分が相応しいかお分かりでしょう?」

「大丈夫です、弁えています」