「無理です」

「どうして?」

「どうしてって?」

「俺達、初めてじゃないし……」

錑の言葉に顔が真っ赤になり、ドキドキが加速した。

「みゆ、可愛いな」

「からかわないでください」

「からかってねえよ」

深入りしちゃ駄目、うん。
錑は私の顔を覗き込んだ、急に錑のかっこいい顔が目の前に現れてドキッとした。
錑はチュッとキスをして、「ずっと一緒にいような」と耳元で囁いた。

その夜から錑のベッドで毎晩愛を確かめあった。
大好きな気持ちが日に日に大きくなって、錑のいない世界は考えられないと思った。

このまま錑を信じて着いて行っていいのかな?
その時嫌な記憶が蘇った、錑は桂木ホテルリゾート株式会社の社長なんだ、と言うことは錑が社長夫人に相応しい女性との結婚が決まるまでの恋愛になる、龍司の時と同じだ。

引き返す事が出来なくなる前に、錑との距離を置かないと私、今度こそ立ち直れない。

でもたわいもない毎日が幸せ過ぎて、私のアンテナは作動していなかった。
そう、私のアンテナはいつも危険を察知する、そうして危険を回避してきた。
龍司の時も、それまで付き合った人が浮気した時も,アンテナは敏感に作動した。
いろいろな情報にも疎くなっていた、この状態を世間一般に幸せボケと言うのだろうか?