そんな矢先、橘不動産の役員が龍司との別れを要求して来た。

龍司は取引先のお嬢さんとの結婚が決まっていたのである。

結婚を周りから反対され、社長になっていなかった龍司は、その反対を押し切って、私と結婚出来る立場ではなかったのだ。

龍司は私に言った。

「社長になって、必ずみゆを迎えに行くから、待っていてほしい」

今まで男性に裏切られ続けた私は、龍司の言葉を信じられなかった。

「みゆ、みゆの涙を見た男は、魔法がかかったみたいにみゆの虜になるんだ、だから他の男の前で涙を見せちゃ駄目だ、自覚ないだろう?」

「自覚無いです、二階堂くんにも言われました、拗ねた顔もやばいって」

「二階堂、みゆに惚れたな、まったく色気付きやがって」

「社長の言うことが本当なら、私は魔法が解けるからフラれるんですかね、いつも告白されて、しばらくすると浮気されるんですよね」

「信じられねえな、みゆに愛されているのに浮気ってどう言うことだよ」

実は愛を確かめ合ったのは龍司が初めてで、他の人はそこまでの気持ちになれなかった。

ただ一人十年前に生涯を共にしてもいいと思った相手がいた。

東城慎太郎、東城コーポレーションの社長。

慎太郎さんは当時奥様を亡くされて、生きる気力をなくしていた。

慎太郎さんとは親子ほどの歳の差があり、恋愛感情と言うよりも父親を慕う娘のような気持ちだった。