この辺りの人じゃないのか、偶々入った喫茶店で時間を過ごしていたのか、どうして泣いていたんだ、失恋か?それとも大切な人を亡くしたのか、まさか自殺なんて考えないよな。

俺は背筋がぞっとした。

何か、何か見つける手立てはないのか、考えろ。

しかし、何も考えが及ばず、彼女の情報も得られないまま、悪戯に時間だけが過ぎた。

そんな矢先、親父が倒れた。

俺は急いで親父が救急搬送された病院へ向かった。

「親父、大丈夫か」

「すまんな、迷惑かけて、わしもここまでだな」

親父はしょんぼりと項垂れた。

「何、弱気な事言ってるんだ、取り敢えず俺が社長を継ぐよ、いいだろう」

「いいも何も、わしの方から頼みたい事だ」

「よし、決まりな、命に別状は無いとの事だからゆっくりしていればまた、温泉くらいはいけるだろ」

「そうか?母さんのところに行く覚悟はしていたんだが、まだ先か?」

親父はハハッと笑って頭をかいた。

俺はすぐに社長就任の段取りに入った。

毎日忙しく彼女を探す時間を取れないでいた。

俺は全国の我が社のホテルを周り、現場の管理の仕事が主だった。
今回、社長就任との事で、久しぶりの本社に足を運んだ。

彼女との出会いから一年が過ぎ去ろうとしていた。