身分違いの恋〜叶わぬ夢と諦めて

「社長?ちょっと待ってください」

私はチェーンを外し、ドアを開けた。

「入るぞ」

「はい」

「スマホ返すってどう言うことだ」

私はスマホを社長に返そうと、紙袋を渡した。

「これ、お返しします」

「どうして?」

「私が持ってる必要がないからです」

社長はしばらく考えていた。

「俺、みゆが好きだ、だからいつも一緒に居たいし、連絡取れないと心配になる、このスマホは俺との連絡用ってことで持っててくれ」

「あのう、社長は彼女いるんですよね、彼女がこの事知ったら悲しむと思います」

「前にも言ったが彼女はいない、みゆに俺の彼女になってほしい」

「そんなの無理です」

「どうして?俺のこと嫌いか」

「嫌いではないですが、社長の彼女なんて荷が重いです、もっと若くて可愛い女の子選んだらどうですか?」

「みゆは若く見えるし、可愛いから問題ないよ」
「可愛くなんかないです、社長はきっと飽きちゃいますよ」

「飽きないよ、ずっとみゆを好きだよ、だからスマホ持っててくれ、わかったな、それに前にも言ったが、俺に惚れさせて見せる、俺を好きになれなければ、その時はスマホは回収するよ」

私は既に社長を好きになっていた、社長の言葉を信じてついていけたならどんなに幸せだろうか、でももう傷つきたくない、社長が私をずっと好きって、どう考えてもありえないよ。

「早速、デートしよう、飯食いに行こうぜ」

「えっ、デート?これからですか?」

「そう、早く支度して」

社長とご飯を食べに行くことになった。




車にエスコートしてくれたその時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「みゆ」

声の方に視線を向けると、そこには龍司が立っていた。
橘 龍司、三十九歳、かつて私が愛した男性、橘不動産の御曹司である。

「龍司」

「みゆ、迎えに来たよ」

「えっ?」

「社長になって仕事も軌道に乗ってきた、やっと僕の言うことが通るようになった、みゆ、結婚しよう」
「龍司」

龍司と私が見つめ合っている間に社長が立ち塞がった。

「盛り上がってるところ悪いが、みゆを口説いてるのは俺が先だから、割り込まないでくれ」

「君は?」

「人に名前聞く時は自分から名乗るのが常識だろう」

「橘不動産社長、橘 龍司だ」

「俺は桂木ホテルリゾートの桂木錑だ」

「役職は?」

「社長だ、まっ、就任したばかりだがな、悪いがあんたに順番は回って来ない」

「どう言うことだ」

「みゆは俺が落とす」

「みゆ、行くぞ」

社長は私の手を引き寄せ車に乗せた。

「みゆ、改めて迎えに来るよ」

私は視線を龍司に向けたまま、社長に引き寄せられた。

「みゆ!」

社長はいつもより力強い声で私の名前を呼んだ。
ビクッと反応して社長に視線を移した。
「みゆ、帰るぞ」

「あっ、はい」

私は社長の顔を見て、一瞬呼吸していなかった自分に気づき深呼吸をした。
龍司が突然現れて戸惑いを感じたが、私の気持ちは既に社長に向かっていた。

社長は車のエンジンをかけて車は発進した。
車内で沈黙が続いた。
車は社長のマンションに到着し、コンシェルジュの横尾さんが挨拶をしてくれた。

「桂木様、お帰りなさいませ」

社長は黙っていた。

「みゆ様、またお会い出来て嬉しゅうございます」

「いつもご丁寧にありがとうございます」

「みゆ、早く来い」

「あっ、はい」

「失礼致します」

コンシェルジュの横尾さんに挨拶もそこそこに、社長に着いてエレベーターに乗った。




部屋に入ると、社長は私の腕を掴み抱き寄せた。
部屋へ向かう廊下の壁に、身体を押しつけられ、
唇を塞がれた。
激しく、まるで犯されるのではないかと思うほど社長の唇は首筋から鎖骨へ移動し、強く吸われた
「社長?」

そのまま私を抱きかかえて、ベッドルームへ向かった。
社長は上衣を脱ぎ捨て、ネクタイを外し、ワイシャツを脱ぐと、鍛えられた筋肉が露わになり、もう、ドキドキが止まらなかった。

私の腕を掴み、バンザイする格好で押さえつけられた。
キスの嵐が私の平常心を掻き乱す。
ブラウスのボタンを外し、私の上半身を起こす、ブラウスを剥ぎ取り、胸の膨らみが露わになると唇を思いっきり押し当てる。

「錑!」

思わず社長の名前を口にしていた。
錑の唇は下へ下へと移動する、思わず「あっあ」と声が漏れた。

「もう駄目」

私は最高潮に達した。

「みゆ、かわいい、最高だ」

錑は私の頬を挟み、唇を重ねた。
そして錑が私の中に入ってくるのを感じた。

「もう駄目」

「まだ、もうちょっと……いいよみゆ」

今度は二人で最高潮に達した。

しばらくして睡魔に襲われた。
どれ位時間が経っただろうか、喉が乾いて水が飲みたくなり、ベッドから起き上がろうとした時、私の腰に回していた錑の腕に力が入り、錑が声をかけた。

「どこへ行くんだ?」

「あっ、びっくりした、起きてたんですか?」

「一睡もしていない」

「えっ?どうして?」

「また、みゆが何処かに行っちゃうんじゃないかと心配で寝られなかった」

「どこも行かないですよ、水が飲みたくて」

「持ってきてやる」

「ありがとうございます」

錑はベッドから起き上がりキッチンへ向かった。
ミネラルウオーターを手に戻って来た。
その一瞬に寝てしまった私の頬に、ミネラルウオーターのペットボトルを押し当てた。

「きゃ、冷たい」

「そんな可愛い声出すと、また抱きたくなる」

「もう無理です」

「無理じゃない」

そう言って私をベッドに押し倒した、そのまま私の上に覆いかぶさったまま、動かなくなった。

「錑?」

錑は睡魔に襲われ爆睡した。
錑の寝顔をしばらく見ていた、このまま時間が止まればいいのに……
寝顔もかっこいい、こんなかっこいい人が私を好きになってくれたなんて嘘みたい。
でもまた他の女性を好きになったら、私はふられるんだ。
だから深入りしちゃいけない、傷つきたくない。

錑は目が覚めて、隣に私がいないことに気づく。

「みゆ!みゆ!」

寝室から飛び出し、キッチンにいる私を見つけると、後ろから抱きしめた。

「良かった、また帰ったかと思って焦ったよ」

私の背中越しに声をかける錑。

「おはようございます、一緒に朝ごはん食べようと思って、キッチンお借りしています」

私を振り向かせ、唇を塞ぐ錑。
そのまま私を抱き上げてベッドルームへ運び、身体を重ねる。

「社長、駄目です、もう起きて支度しないと遅刻します」

「錑でいいよ」

「いいえ、昨夜は調子に乗り過ぎました、すみません」

「大丈夫だ、錑って呼べ」

「私達、恋人同士じゃないんですから、これから一線超えないようにしないといけないと思うんです」

私の言葉を遮るように錑は起こった口調で言った

「何それ、どう言う意味?あんなに愛し合ったのに恋人同士じゃない?これから一線越えないように?」

私は下を向いてどう答えればいいか迷っていた。
「あいつの申し出受けるってこと?みゆとのことは忘れろってこと?」

「そうじゃありません」

「じゃあ、どう言うこと?俺を受け入れてくれたのは、あれは嘘?あいつを思いながら俺に抱かれたのかよ」

「違います」

びっくりした、こんな錑は初めて見た。
錑は深呼吸をして私を見つめた。




「すまん、取り乱した、言ってはいけないことを言った、悪かった」

「大丈夫です」

「あいつのプロポーズ受けないよな?」

「はい、お断りしますよ」

「俺とのことは一線越えないようにするって、どう言う意味?」

「社長の彼女になる人は、社長と釣り合いが取れる方じゃないと、将来は社長夫人ですから」

「だから?」

「私では役不足です」

「誰が決めたんだ」

「えっ?」

「俺の彼女にはみゆしかいないと、俺が決めた、役不足なんかじゃない」

「でも……」

「俺のこと嫌いか?」

「嫌いじゃないです」

「じゃあ好きか?」

私は自分の正直な気持ちを言っていいか迷った。

「みゆ、俺に惚れろ、俺だけ見てろ、わかったか?」

「は、はい」

「よし、いい子だ、ずっと一緒にいような」

「社長のこと信じて、ついて行っていいんですか?」

「当たり前だ、俺を信じろ」

錑は私を引き寄せてキスをした。




私は一旦自分のアパートに戻り、服を着替えて出社することにした。
出社すると会社では錑の婚約の話で大変な騒ぎになっていた。

「みゆ先輩、おはようございます、もう大変な騒ぎですよ」

「どうしたの?」

「社長が婚約を発表するそうです」