「ああ、ちょっと待ってくれ」

俺はどうしても彼女の存在が気になった。

彼女のテーブルに近寄った。

「あのう、相席よろしいでしょうか?」

彼女はゆっくりと顔を上げた。

その時、目にいっぱいの涙が溢れて頬を伝わった。

俺は一瞬にして彼女に心を奪われた。

彼女は俺をじっと見つめて「私もう帰りますのでどうぞ」と言ってその場を去った。

彼女の座っていた席にストールが置きっぱなしになっていた。

俺は急いでそのストールを手に取り、彼女を追いかけた。

しかし、すでに彼女の姿はなかった。

「錑様、お知り合いの方ですか?」

「いや、いいんだ」

俺は彼女の忘れたストールを握りしめて、これが彼女との最後なのかと悔やまれた。

でも諦めがつかない俺は、毎日彼女と巡り合った喫茶店に足を運んだ。

三十分から一時間ほどコーヒーを飲んで時間を潰した。

彼女は全くその喫茶店に姿を現さなかった。