北山先生に甘えてはいけないと思いながら、私は北山先生の胸で大声で泣いた。


北山先生は何も言わずにそのまま私を抱きしめてくれた。

どれ位の時間が過ぎただろうか。

診療所のドアの向こうに錑がいた事に気づかずにいた。

錑が急に入ってきて、私を北山先生から引き離した。

「みゆ、話がある」

そう言って、私を外に連れ出した。

錑は私に背を向けて、信じられない言葉を投げかけた。

「健志が好きなのか」

私はなんて答えればいいか迷っていた。

錑は私の方に振り返り「俺じゃなく、健志を選んだのか、答えろ、みゆ」と声を荒げた。

俺はわかっていた、みゆはそんな女ではない事を……

でも、健志と抱き合っていた光景に嫉妬の炎が燃え上がった。

みゆは俺のこと、会社のことを考えて、身を引こうとしている。

でももし本当に俺が振られたんだとしたら、みゆとの結婚で会社が危機を脱することが出来ることなど、言えるわけがない。

俺に愛情がなくとも、俺との結婚を選ぶだろう。

俺はみゆと愛し合いたいんだ、偽りの愛はいらない。