「じゃあ帰るね」

そう言ってベンチから立ち上がる。
友達にもメールしたいし。

「お、今日は大丈夫なんだ」
「何が?」
「覚えてないの?昨日大変だったのに」
「?」
「昨日、急に陽葵ちゃんが寝ちゃうから困ってさー。そんで仕方ないから生徒手帳にのってる住所勝手に見せてもらって家に送ってあげたんだけど……。ほんとに覚えてないの?」
「ごめん……」

そうだったのか。どうりで玄関先で寝てたわけだ。
でもどうせならピンポン鳴らしてくれてもよかったのに。外に寝かすなんて……。

「いいよ別に。もう急に寝たりするなよ。じゃあな」

滉晴の“じゃあな”はあっさりしてた。
本当はもっと一緒にいたいのに。でもそれができないから。

「うん。じゃあね」

私も心とは裏腹にあっさりと言った。
そして、どうしても心配だったから最後に聞いた。


「明日も、会える?」

恐る恐る聞いてみる。返事を聞くのが怖い。

「明日かぁ……明日はちょっと……」

少し……いや、かなり期待していたからかショックが大きかった。

「うそうそ、会えるよ。もしかして会えないのがショックだった?」

笑いながら私の顔を覗き込む。

「別にそういうわけじゃない!そういうの自意識過剰って言うんだよ。」
「はいはいごめんなさい。またここでね」

キレ気味口調とは逆に心の中は心拍数が早い。
ドキドキしすぎてる。

「……またここで!」

私は滉晴に背を向けると歩き出した。
すると、滉晴が私の背に向けて叫びだす。

「その前に学校でな!」
「うん!」










家に帰ってきては早速部屋に行きベッドの上に寝転がる。


そういえば学校行かなくなってから一度も恭子達とメールしてない。行かなくなった日から受信メールが溢れていたけど、誰にも返信はしてない。

まずは恭子から。
学校に行かなくなった日から何ヶ月がたったのだろう。
今までの事が頭をよぎる。何から打てばいいのか分からない。とりあえず今の気持ちから伝えるべき?
でもなんて……。

【久しぶり!元気!?私は元気だよ~!】

……なんかうざい。

【久しぶりだねっ!ごめんねいきなり!】

……ほんといきなりだな。

【私、気になる人できたんだけど、どーしよ~!!】

……は?
いやいや、久しぶりメールじゃないよねコレ。




結局、恭子どころか誰一人でさえメールを送ることができなかった。
また今度にしよう。そう思い、スマホを置いた。










────……
──……

今の時刻は、AM8:00。
カーテンの隙間から光が差し込んでいる。

それより学校。……この時間はもう無理だ。今なら遅刻でもいける。
いや、今までだってそうだった。行こうと思えばいつでも行けたのに、行けなかった。


でも、今日は。

『その前に学校でな!』


“学校で”……。