「学校は、楽しい?」

顔の向きも変えずに滉晴が聞いてきたからびっくりした。

“学校”

「……私、学校行ってないんだよね」
「……え?」
「不登校なの、私」

言った。

「何で?もしかして……いじめられてるとか?」
「違うよ。私が行きたくないから行ってないの。友達とは普通に仲いいよ。クラスのみんなとも」
「じゃあ何で行きたくないって思ったの?」
「それは……」

何でだろう。

それは……

「失ったから」
「え?」
「毎日が楽しかった。けどね、ある日何かが足りないって思ったの。大切な何かが。
友達がいる。クラスのみんながいるのに、何かが足りないの。心にぽっかり穴が開いたような……。それから学校に行かなくなった」
「……」

滉晴は何も話さなくなった。
さっきまでの瞳も今は下を見てて暗い。

「でも今は今で楽しいよ?自由だしさっ!」

あまりにも話が暗いので私は滉晴の前に立って元気にそう言った。でも滉晴の目は真剣そのもので、私を見つめると低い声で言った。

「本当に?」
「え……?」
「本当に楽しい?学校に行かないで友達に会わないで、寂しく思わない?」
「……」
「本当は寂しいでしょ?一人でいて寂しくないなんて人はいないよ」
「……っ」

涙が止まらなかった。

「一人でいようなんて思わないで、友達がいるんだから」
「……うん」
「足りないものがあるんなら、これからつくっていけばいい。心に開いた穴を少しずつでいいから、塞いでけばいいんだよ」

滉晴の言葉は不思議だ。
私の心を温かくしてくれる。

「陽葵ちゃんは一人じゃないんだよ。一人でいるワケじゃない。現に今だって目の前に俺がいる」
「うん」

ありがとう……滉晴。













しばらく泣いていた。
さすがに泣きすぎて目が痛い。痛すぎる。
そんな私を見て滉晴は笑いながら私の頭に手を乗せ、言った。

「いつまで泣いてんだよ~泣き虫だなっ」

滉晴は優しすぎる。
やっぱり、どこかで会ってるような感じがするんだよね。




……あとで恭子達にメールでもしてみようかな。