少しして、滉ちゃんから離れると私は言った。

「私……ショックで記憶が失くなってて……滉ちゃんに会った時分からなかったの。思い出せなくてごめんね」
「知ってたよ」
「え……」
「いつも公園に来て泣いてるの、見てたから」

そうだったんだ。
滉ちゃんはずっと、私の事を見ててくれたんだ。
ずっと見守っててくれたんだ。

滉ちゃんは守ってくれてるよ。
約束、守ってくれてる。


「もう一度陽葵に会いたくて、ずっと話したかった。だから、こうやって話せてうれしいんだ、俺」

滉ちゃんは子供みたいににっこりと笑った。
その笑顔につられて私も笑う。

「陽葵、おいで」

そう言うと滉ちゃんは遊具を登りはじめる。
私も笑顔で後を追いかけた。

「ほら」

上までたどり着いた滉ちゃんは私に手を差し伸べる。私はその手をつかんた。

「ありがとう」

そうして私は遊具の上に登ることができた。

空を見上げる。そこには真っ暗な中、たくさんの星が広がっていた。
記憶がなくなってから一回、滉ちゃんに見せてもらった星空。記憶が戻ってから2人で見る空は違った。2人だけの場所。私たちだけの、とっておきの場所。

滉ちゃんは前に、ここで1人、泣いてたよね。
それは私を1人残してしまったから?

「相変わらず1人じゃ登れないんだな」
「うるさいなぁ」

滉ちゃんが笑ってる。
滉ちゃんが、私の隣で笑ってる。

あの頃に戻ったみたいだった。


「そういえば前に熱だしたとき……ごめんな。陽葵を1人置き去りにして。最低だよな」
「ううん。大丈夫だよ。熱も冷めたし」
「ほんとごめん」

顔を曇らせる滉ちゃんの肩に頭を置く。前に雨が降ってた時と同じ。

「……滉ちゃん。私……」
「うん?」
「ずっと滉ちゃんにすがりついてた。滉ちゃんがいないから学校に行かなくなって、滉ちゃんを理由に私ずっと逃げてた」
「……」
「でもこれからは1人で生きていかなきゃいけない。滉ちゃんがいなくても……。だから私、ちゃんと学校に行く。もう逃げたりしない」

滉ちゃんは黙ったまま空を見上げていた。

「滉ちゃんの分も、生きてく」