公園についた時には空は暗くなっていた。

私は学ランを両手で持ち、息を切らして公園の入り口に立ちつくしていた。あたりを見渡しても公園には誰もいない。


「滉ちゃん……」

中央に位置する遊具の所までゆっくり歩いていく。学ランを強く握りしめる。


「何?」

後ろを振り向く。そこには学ランを着ていない、カッターシャツの滉ちゃんがいた。

「寒いからさ、それ、返して?」

滉ちゃんは私の持つ学ランを指さして言った。

「あ、うん……」

滉ちゃんのすぐ前まで行き、学ランを渡す。素早く滉ちゃんは学ランを羽織った。

「ねぇ……滉ちゃん」

滉ちゃんの顔がまともに見れない。

「久しぶりに聞いた。その呼び方」

優しい声で滉ちゃんは言う。

「……」

言葉が出てこない。言いたいことがたくさんあるのに。手が震えだす。

「寒いの?」

そう言うと、滉ちゃんは私の両手をとり自らの手でそっと包んでくれた。滉ちゃんの手はとても温かい。

「冷たいなぁ、陽葵の手」

笑いながら言う滉ちゃんに、私は言葉が出なくなっていた。

「陽葵?」

言わなくちゃ……、今言わなくちゃ。

「……滉ちゃん」
「ん?」

声が震える。

「ごめんね……ごめんね、滉ちゃん。私のせいで……」

滉ちゃんの顔が見れない。下を向くと涙がでてきた。

「私のせいで……滉ちゃんが……。私が道路なんか飛びださなきゃ……」

涙が一粒一粒、落ちていく。

「陽葵、顔あげて?」

私の両手を包んでた手を離し、今度は私の頬に優しく触れた。私はゆっくりと顔をあげる。

滉ちゃんの顔は怒るでも責めるでもなく、優しい表情をしていた。あの頃の滉ちゃんの顔だ。

「陽葵が悪いんじゃないよ。だから泣かないで」

「違う……私が滉ちゃんを……」
「俺、約束したよね?“陽葵を守る”って。俺は陽葵を守れたから、いいんだよ」
「滉ちゃんっ……」
「でも、ごめんな。ずっと約束守れなくて。そばにいれなくて」

悲しそうな顔をする滉ちゃんを見て、さらに涙が溢れだす。

「ううん」
「また陽葵に会えてよかった」
「私もだよ……滉ちゃん」

優しく私を抱きしめてくれた滉ちゃんの背に、私は手をまわす。
やっぱり滉ちゃんは温かい。