その日から俺の頭の上にだけ雨が降ってるかのようだった。

「そっか、振られたか。あんな男のどこがいんだろうな、陽葵ちゃん」
「気安く陽葵ちゃんて呼ぶなよ」
「振られたお前が言うな。無理にでも別れさせればいいのに」
「そんな事する権利俺にはねぇよ……」
「とにかく元気出せよ!ま、男の失恋の立ち直りは長いと思うけどな!」

励ましてんのか?こいつ……。
泰貴は人事のように能天気だった。

陽葵ちゃんとはあれから話していない。目があっても無視。俺を避けるようになった。
彼氏から何か言われたんだろう。

「……しばらくは恋なんてできないだろうな」

空を見上げて、俺は言った。




────……
──……

昼、自販機で泰貴とジュース選びをしていた。
どれにしようかと悩んでいたら、自販機の向こう側に見える教室が目に入った。
ドアの窓から陽葵ちゃんの姿が見えたのだ。

「陽葵ちゃんだ」
「え?」

気づいたら俺は教室の方へ走っていってた。
教室についた時、中から話し声が聞こえた。

「何だって?」
「私……先輩と別れたいんです!」

先輩の低い声と……陽葵ちゃんの震えてる声だ。
話の内容からして……別れ話をしているようだ。

「おいおい、こう言うのってやばくないか?」

泰貴が焦って言う。

「静かにしろ!」

こちらの様子には気づかず、中では話が続く。


「俺と別れたいの?」
「……う、うん!」


──ばしぃっ……。

鈍い音がした。どさっと何かが倒れる音が聞こえる。

「ふざけんなよ。この俺がお前みたいなヤツと付き合ってやってんだからありがたく思えよ。お前は金でも集めて俺に貢いでりゃいんだよ」

頭の中で何かがプツッと切れる音がして、気づいたら俺は先輩に殴りかかっていた。
教室中に鈍い音が響き渡る。

「なっ、んだよお前!」
「お前こそなんだよ、女殴るなんて最低だなっ!」
「はぁ!?てめぇには関係ねぇだろ!」
「おおありだぁ!」

そう叫んでもう一発先輩を殴った。

「おいおいやめろよ滉晴!」

泰貴が止めにかかろうとするが俺は聞かなかった。

「なんだよお前!いいよ!そんな女くれてやるよ!うぜぇ……」

そう言って先輩か逃げるように教室を出て行った後、教室には俺と泰貴と陽葵ちゃんの3人が残っていた。