男は暗がりの中、私の目の前で立ち止まった。
さっきは月の光で少ししか見れなかったが、今ははっきりと見える。

整った黒い髪にかっこよく着こなしてる学ラン。顔はかっこいい。絶対モテる顔だ。
そしてよく制服を見ると私と同じ学校だ。
こんなイケメンが同じ学校?まさか。

泣いてたことも忘れまじまじと男を見つめる。
すると男が口を開いた。

「聞こえなかった?こんな時間に何してんの?」

見たら分かるでしょ、ベンチに座って1人メソメソ泣いてたのよ。
口に出さず心の中で呟く。

「そんな怖い顔しないでよ。安心して。とって食うとかそんなことしないから。隣いい?」
「……どーぞ。」

笑いながら男は隣に座った。
その時の横顔が一瞬……一瞬だけど、また悲しそうに見えた。

そして何だか……なつかしく感じて、それと同時にまた涙が溢れてきた。

──あなたは……誰?


「泣いてたの?」

先に沈黙を破ったのは男だった。

「別に泣いてなんかないよ」
「目の下すごい腫れてるよ」

知ってる、すごく痛いから。

「なんか悩み事があるなら聞くよ?」
「……その前に初めて会ったのに名前とか言わないの?」
「あ、確かにそうだね。ごめんごめん。君の名前は?」
「そこは自分から言うもんじゃないの?」
「俺の名前なんて別にどうでもいいよ」

……何言ってんの?この人。

「私の名前は陽葵。栗栖陽葵(くりすひまり)」
「……ふうん」

自分から聞いといてその反応はなによ……

「あなたの名前は?私教えたんだから、教えてよ」
「何だと思う?」
「もったいぶらないで教えてっ」
「星がキレイだね~」
「ちょっと!」

私……この人苦手だ。
でも星を見ている彼の瞳は輝いて見えた。

「滉晴(こうせい)」
「え?」
「俺の名前。吉成滉晴(よしなり こうせい)」
「こうせい……」
「そ。見ての通り陽葵ちゃんと同じ高校で1年!」
「1年!?」

同じ学年でこんなイケメンがいたら気づかないワケがない。でもこの人見かけたことあるかな?
それに『陽葵ちゃん』って馴れ馴れしいな。

「それじゃ話もどって、なんか悩みでもあるの?」

滉晴は私の方には向かず、夜空を見つめたまま言った。
その瞳は星を見ているのではなく、どこか遠くを見ているかのような瞳だった。