頭の中で何かがよぎった。

……誰かが目の前に倒れている。
誰かは分からない。またぼやけて見える。
多分この前と同じ人であろう。

何があったの?どうして倒れているの?

そして自分の手に何かがついてるのに気づいた。
そこには真っ赤な血がついた、自分の手があった。


「いやあああああああああああ!!!!!!」

コンビニの袋を落とすと来た道とは別の方向へ走り出した。

どこへでもいい。今見たものを忘れられる場所ならどこでも。

私は何かを忘れている。大事な何かを。
でも思い出したくない。何も見たくない。

怖い怖い怖い、知りたくない。知ってしまうのが怖い。
もう嫌だ。助けて、誰か私を助けてっ!!





ずいぶん走った。息をするのも忘れるくらいに。
そこは最初の頃通っていた、学校の帰り道だった。入学当初は恭子と麻美と私との3人で一緒に帰っていた道。

あの頃は楽しかった。
よく3人ではしゃいで登下校した帰り道。でも今となっては、恭子と麻美の2人で帰ってる道だ。

…あの頃に戻りたい。
今更私が学校行ったところで2人が仲良く迎えてくれるだろうか?

突然学校からいなくなった私を。連絡の1つも送らなかった私を。
迎えてくれるはずがない。今の私にはもう何もないんだ。


その場に座り込み、また、私は泣いた。すると、近くで話し声が聞こえた。

……誰かいる?

声のする方を振り返ると、そこには恭子と麻美の後ろ姿があった。

「恭子……麻美……っ!」

涙を流しながらも笑顔で2人のもとへ駆け寄ろうとした。

近づいていくにつれて話し声も鮮明に聞こえてきて、恭子の言葉がはっきりと聞こえた。

「陽葵……今何してるのかなぁ……」

足を止める。
……私の話?

「ずっと連絡ないじゃん?学校にも来なくなっちゃって……」
「そうだね」

心配そうな顔をする麻美に、続けて恭子が言う。

「でもしょうがないよ……あんな事があったんだから……」
「陽葵、かわいそう……。私達が力になってあげればいいんだけど……」

何?一体何の話をしてるの?あんな事?
何が……。


今まで頭の中で見てきた光景を思い出した。

「……私」

バラバラになっていたピースが1つずつ合わさっていく。


──思い出した。
全部、思い出した。

消えていた記憶を。

あなたの存在を。