すると滉晴は私の方に向き直り、優しく抱きしめてくれた。
突然の出来事に驚く。

「……滉晴?」

滉晴は黙ったまま、私を抱きしめている。
とても……温かい。

抱きしめる滉晴の腕の力が強くなっていくのが分かる。


「滉晴、苦しいよ……」

滉晴は黙ったままだ。

「滉晴?」


「ごめんな……」





「…え?」

ごめん……?何、が?

分からない。何を言ってるの?滉晴。








「約束守れなくて……ごめんな」


遊具の中の2人に関係なく、雨は速度を上げ降り続く。



……何を言ってるの滉晴。
約束って……何?


「滉、晴?」

滉晴は我に返り、私から手を離した。

「いや、何でもない……ごめん」

滉晴は頭を抱えて下を見ている。

約束ってなんだろう。聞いてみたいけど……いいのかな。


「ねぇ、滉晴、約束って……」
「何でもないって、今の話忘れて」

きつい口調の滉晴。
……怒らせちゃった。

「ごめん」

涙を拭きながら滉晴とは反対方向を向く。

「……きつく言い過ぎた。俺こそごめん」

再び静まり返る遊具内。
雨はまだ止まない。





「俺ら……もう会うのやめようぜ」
「……え?」

滉晴の方を振り返る。

「もともと偶然ここの公園で会っただけの仲だろ?付き合ってるわけでもないし。もういちいち会わなくてもいいんじゃない?」

急に何を言い出すの?

「で、でも……」
「でも……何?」

またきつい言い方をする滉晴に言葉が返せない。

「どうせ学校で会えるだろ?お前もちゃんと学校来いよ」

言葉が……でてこない。

「じゃあ俺帰るから。お前その学ラン貸してやるから羽織って帰れよ。熱あんだから」
「え……滉晴!!」

滉晴は雨の中走って行ってしまった。
私は滉晴の背中をただ見つめる事しかできなかった。



どうして?
何でこうなるの?

初めてあったときは確かにただの偶然だったかもしれない。でも私は滉晴に会いたくて仕方なかった。滉晴だって会いにきてくれてた。

滉晴は私と会うのが嫌だった?
じゃあ何で私がいると思ってきてくれたの?こんな雨の中……。

確かに付き合ってるわけじゃないよ?私達……。
でも……でも──


もう、やだ。





私は学ランを握り締めて雨にかき消されると分かっていながら大声で泣いた。









────……
──……

あれから5日が経って私の熱は充分に下がった。

今日も着ても意味のない制服を着る。どうせ学校にも行ってないのに。
ドアノブに手をかけた時だった。ドアの横にかかってる学ランが視界に入る。


……あれから公園には行ってない。
全部終わったんだ。ううん、何も始まってもなかったんだ。

止めていた手を動かす。



私は今日も、街を彷徨う。