「ヘックション!」
滉晴がくしゃみをした。鼻をこすっている。
「滉晴……寒いの?」
「だから俺は寒くないって」
「今くしゃみしたじゃん」
「誰かが俺の噂をしてるんだよ」
そう言うと、滉晴はまたくしゃみをした。
「ほら、また誰かが俺の噂を……」
私は学ランの半分を滉晴にかけてあげた。その半分を私が羽織ってるから、隣同士でくっつく体勢になった。
「これならいいでしょ?」
笑顔で滉晴に微笑みかける。
「……ありがと」
照れくさそうにお礼を言う滉晴はすごくかわいらしかった。
隣に滉晴が居て、すごく温かい。
しばらく私達2人は目の前に見える、雨が降り注ぐ景色を見ていた。
雨が止む気配はない。眠気が襲ってきて滉晴の肩に頭を置いた。
滉晴は何も言わない。
「ねぇ、滉晴……聞いていい?」
目をつぶったまま聞いた。
「何?」
「私がさっきベンチで座ってた時……何で泣いてたのか聞かないの?」
「聞いてほしいの?」
「そう言うわけじゃないけど……」
「無理して言わなくていいよ。何か事情があるんだろうし」
滉晴は静かに笑って言った。
……こんな事、言っていいのか分かんないけど。
「……滉晴」
「ん?」
「私ね、自分が分かんないの」
「……うん」
「前に学校に行かない理由は何かが足りないって言ったけど、何が足りないのか分かんないの」
「うん」
滉晴はただただ、私の話を聞いてうなずいていた。
目をつぶったまま話していた私は気づかなかったんだ。滉晴が切なそうな顔をしているなんて──
「その何かを……私は失っちゃったの」
「うん」
「考えれば考えるほどわかんなくなっちゃって……自分が何でここに来たのかも分かんなくなっちゃって……」
「うん」
「自分が何を忘れてるのかも……涙が何でこんなにもでるのかも……もう何も分かんなくて……」
気づけば私の目からは涙が溢れ出していた。
「自分が……わかんなくて……」