その日、アースとマイルド、そしてアルフがGarden Spiritsへと連れ立ってやってきたのを見て、ジオたちは眉を顰めた。マイルドは顔色が悪く、アルフも調子は悪そうだ。アースだけが比較的元気そうな様子だった。皆学校帰りなのか、制服を着ている。Garden Spiritsの面々に視線が飛び交った。一つ頷いてディーンが3人に近付いた。
「いらっしゃいと言いたいんだけど、ちょっと顔色が悪いね。ひとまず奥で休んで」
そう言って、ディーンはロンに眴して3人をバックヤードへ案内していく。ロンも頷きを返してグレンに近寄る。時計の長針はちょうど5と6の間を示している。ラストオーダーの時間は過ぎているため、調理担当のグレンとロンの仕事はほとんど残っていない。
「こっちは任せとけ。早めに閉めてそっちにいくから」
ジオも親指を上に立てている。ロンは頷いてバックヤードへと向かった。
ロンが扉を開くと、マイルドが仮眠用ベッドに横になったところだった。ディーンが足元にブランケットをかけてあげている。
「何があったのか聞いてもいいかな?」
アースは頷いて話し始めた。曰く、アースとマイルドは学校で同じクラスなのだそうだ。最近になって仲良くなり、たまたま今日は店に行こうという話になったという。そして、店の近くでアルフとばったり会い、その後マイルドの体調が悪化したとのことだった。
「店が近くだし、とりあえず外にいるよりはマシかなと思って連れてきたんです。兄ちゃんには連絡しておいたんですけど」
タイミングから逆算すると、おそらくジオは手が離せず確認できていなかったろう。ディーンはアースに礼を言ってロンを部屋の片隅に連れていった。
「マイルドちゃんは頭が痛いらしい。店に入ったら少し楽になったと言っていたから、少し休んでもらって様子を見ようと思う。知り合いの医者には連絡したし。ちょっと気になるのはアルフの顔色が悪いことと、嫌なカンジがあることかな。さっき軽く払ってみようとした時にうまくいかなかったから、その辺の霊が憑いたわけではなさそうだし、原因がわからないと対処が難しい類かもしれない」
ロンはアルフたちの背中を見つめて眉間に皺を寄せた。
「俺もこのところ毎晩祓ってはいるんだけどな。今日は特にひどいな」
「そうなのか。とすると何か持ち物が影響しているかもね。調べられるかな」
「聞いてみる」
ロンはアルフに声をかけ、隣にあるもう一つの仮眠室へ連れ出した。
「どうしたの、ロンさん」
「それはこっちのセリフだ。お前、顔色悪いぞ。お前も少し休め」
そう言って、仮眠用のベッドにアルフを促した。
「こっちにもベッドがあるんだね。すごい」
「あっちはお客様用だし、女の子と同じ部屋にはちょっとな。従業員用のこっちで悪いけど。あ、横になる前にちょっと座ってくれ」
アルフは大人しくベッドに座った。気怠げで、背中が曲がっている。ロンはお湯をタオルに含ませて絞り、アルフに近寄った。アルフは目の前に立ったロンをぼうっと見上げて首を傾げた。
「脱いで」
「えっ」
「汗かいてるだろ。冷えると良くないから」
ほら早くとロンに促されて、アルフはドギマギしながらも大人しくシャツのボタンを開け始めた。下着も脱いで上半身裸になったアルフを、ロンは丁寧にタオルで拭いていく。一通り拭き終えると、立ち上がってクローゼットを開けた。中から従業員用の替のシャツを取り出すと、アルフに放り投げる。
「それ、着とけ」
アルフが脱いだ下着とシャツをハンガーにかけて部屋の隅に吊るすと、ロンは振り返った。アルフはシャツのボタンを閉めて、横になろうとするところだった。
「じゃあ、俺はちょっと店に戻るけど、またすぐくるから寝て待ってろ」
こくこくと頷くアルフを確認して、ロンは部屋を出た。
閉店を少し前倒ししてバックヤードに集まったジオたちGarden Spiritsの面々は、ミーティングルームで二つの仮眠室の様子を監視カメラ越しに確認しつつ簡単に状況を共有した。
「マイルドちゃんはアルフの影響かと思ってたけど、どうも違うみたいだな。今はアースくんに様子を見てもらっているけど、アルフと引き離しても体調は回復していないし。それにさっき軽く祓ったけど効果はなかったから、おそらく物か何かに呪いが仕込まれていると思う」
ディーンの言葉に、ジオが口を開いた。
「このメンバーで感知型は俺しかいないし、俺が様子を見てくるよ」
「頼むよ。アルフの方はどうだい」
「身につけているもので怪しいものはなかった。荷物はまだ確認できていないから、ジオ、後で見てくれるか」
「わかった」
「グレン、ジオのバックアップを頼むよ。除霊が必要になるかもしれない」
「あいよ。やっと俺の出番が来たかぁ」
ぐるぐると肩を回すグレンと共にジオはミーティングルームを出た。
ジオとグレンが客用仮眠室へ入ると、マイルドは横になっていた。ジオは眉を顰める。見慣れない紅いアクセサリーがマイルドの首元にあった。
「アース、悪いが席を外してくれるか。ちょっとマイルドちゃんに聞きたいことがあるんだ」
「わかった。廊下で待ってるね」
グレンと共にアースが廊下へ出たのを確認すると、ジオはベッド脇の椅子に腰掛けた。
「具合はどうかな」
「ちょっと、良くなったみたいです。ありがとうございます」
そう言いつつも、マイルドの顔色は優れない。
「俺たち、まだ仕事があるからもう少し休んで待っててもらえるかな。アースと一緒に家まで送っていくよ」
「いえ、そんな。大丈夫ですから」
「心配なんだ。送らせて?」
ジオが優しく笑いかけると、マイルドは渋々と頷いた。
「よし。じゃあそういうことで。そうだ、そのアクセサリー、外したほうがいいんじゃないかな。痛くない?」
ジオの言葉に、マイルドははっと首元に触れた。まるでそのアクセサリーに初めて気が付いたかのようだ。
「そうですね。外してみます」
マイルドは肘をついて起き上がると、首元をいじった。が、なかなか外せない。
「手伝うよ。ちょっといいかな」
ジオが手伝いを申し出ると、マイルドは大人しくジオに背を向けた。ジオがネックレスの金具に触れるが金具が動かない。何度か試しているうちに、マイルドの息が上がり始めた。ジオははっとしてマイルドの顔を覗き込んだ。首が絞まっているかのように首元に両手を持ってきてネックレスを下げるような仕草を見せるマイルドに、ジオは険しい表情で監視カメラの方を一瞬振り返ったのち、マイルドの苦しそうな目をみて肩に触れる。
「ごめん」
一言、ジオは呟くと目をそっと閉じた。そして次の瞬間に目を開いたときにはジオの瞳はいつもの茶色ではなく、ブルーとグレーのオッドアイになっていた。
マイルドの首元右側にジオは顔を寄せ、ネックレスを思い切り噛みちぎった。直後、ネックレスから禍々しい気が立ち上り、霧散する。マイルドは一気に咳き込んだ。
徐々に呼吸が落ち着いてきたマイルドは、ジオの顔を見て驚いたように目を見開いた。
「どこか……痛いところはない?」
オッドアイのジオはマイルドの背をさすり、自身も肩で息をしながら優しく問うた。マイルドはその優しく気遣う瞳と声音にどきりとした。と同時に、強烈な眠気がマイルドを襲った。
「大丈夫です……でもすごく……眠い……」
マイルドはオッドアイのジオの胸元に頭を預ける。そっと髪を撫でられ、瞼が自然に落ちていった。眠りに落ちる前、マイルドは優しい声を聞いた気がした。
「夢だよ。眠れ」
再び、Garden Spiritsの面々はミーティングルームに集まった。マイルドは深く眠っており、アースがそばで宿題をしながら様子を見ている。アルフは6時半ごろになると、撮影があるからと言って店を出て行った。
マイルドが首につけていたネックレスは、真ん中についていた石が割れ、鎖はちぎれ、見るも無惨な姿になっていた。ジオがみたところ、もうモノは憑いていないらしい。
「写真は撮ったし、悪用されないように燃やしてしまったほうがいいだろうね」
ディーンの言葉に、グレンはウキウキと処分用のものが入った袋にネックレスの残骸を片付ける。後で裏庭の専用スペースでまとめて処分するのだ。燃える類いのものは火の精霊で浄化するが、金属などの燃えないものは水の精霊の力で浄化されたのちにリサイクルセンターへと送られる。
「呪いの類なのはわかってるけど、問題は誰がやったかだね」
呪いを媒介する物を破壊しても、大元が断たれない限り同じことが繰り返される。それどころか、より強力な呪具が使われてしまうケースも多い。アルフの件と同様、できるだけ早く犯人を見つける必要がある。
「ジオはマイルドちゃんが目を覚ましたら、どこで買ったのか、それか誰からもらったのか聞いておいて欲しい」
ジオは黙って頷いた。瞳はいつもの焦げ茶色に戻っている。
「それから、この前ロンが見つけてきたアルフくんへの呪いの件だけど」
そう前置きして、ディーンはディスプレイに先日キーホルダーの中から見つかった紙を映し出した。
「これはやっぱり呪いではあるんだけど、アルフくんの名前はかかれていなかった。持ち主を呪う類いのものだったんだ。犯人は直接的な知り合いじゃない可能性がある」
ディーンの説明にロンは首を傾げた。
「アルフは知り合い以外からのプレゼントは受け取らないって言ってたぞ。前にGPSが仕込まれていて事件になったことがあるからって」
「そうすると、あのキーホルダーはやっぱり知り合いからだったってことか。でも、アルフ個人を狙ったわけじゃない?」
グレンの仮説をジオは否定した。
「そうとも限らないだろ。アルフに渡してるんだから」
それもそうだな、とグレンは腕を組んで唸った。
「もしこれが、仮にだぞ、無差別だとしたらエラいことだぞ……」
グレンの言葉に、ディーンたちは険しい顔で黙り込んだ。
数秒ののち、沈黙を破ったのはロンだった。
「そうだ、ルイスについて何かわかったことはあるか?」
「いや。住んでいるところぐらいだよ」
「どこだ?」
ディーンが地図を表示させ、ポインタで示すとジオとロンは顔を見合わせた。
「そこって……」
そこは、ジオとロンがパトロールの帰りに立ち止まったアパートだった。
アルフは次々とフラッシュが焚かれる中、スタジオでポーズを取っていた。その首元には、紅い石の嵌ったネックレスがあった。
強がって撮影に来たものの、アルフはどんどん強くなる頭痛に内心で後悔していた。
(次の休憩になったら頭痛薬を飲まなきゃ……)
「よし! いったん仕上がりを確認するからちょっと休憩してて!」
監督の声に、アルフはほっと息を吐いて用意された席へ向かう。数歩進んだのち、アルフは目眩に襲われた。視界がグルンと回転し、身体から力が抜けて尻餅をつく。ドシンと尻に衝撃があったが、どこか遠い感覚でアルフの意識はすうっと遠のいて行った。
「いらっしゃいと言いたいんだけど、ちょっと顔色が悪いね。ひとまず奥で休んで」
そう言って、ディーンはロンに眴して3人をバックヤードへ案内していく。ロンも頷きを返してグレンに近寄る。時計の長針はちょうど5と6の間を示している。ラストオーダーの時間は過ぎているため、調理担当のグレンとロンの仕事はほとんど残っていない。
「こっちは任せとけ。早めに閉めてそっちにいくから」
ジオも親指を上に立てている。ロンは頷いてバックヤードへと向かった。
ロンが扉を開くと、マイルドが仮眠用ベッドに横になったところだった。ディーンが足元にブランケットをかけてあげている。
「何があったのか聞いてもいいかな?」
アースは頷いて話し始めた。曰く、アースとマイルドは学校で同じクラスなのだそうだ。最近になって仲良くなり、たまたま今日は店に行こうという話になったという。そして、店の近くでアルフとばったり会い、その後マイルドの体調が悪化したとのことだった。
「店が近くだし、とりあえず外にいるよりはマシかなと思って連れてきたんです。兄ちゃんには連絡しておいたんですけど」
タイミングから逆算すると、おそらくジオは手が離せず確認できていなかったろう。ディーンはアースに礼を言ってロンを部屋の片隅に連れていった。
「マイルドちゃんは頭が痛いらしい。店に入ったら少し楽になったと言っていたから、少し休んでもらって様子を見ようと思う。知り合いの医者には連絡したし。ちょっと気になるのはアルフの顔色が悪いことと、嫌なカンジがあることかな。さっき軽く払ってみようとした時にうまくいかなかったから、その辺の霊が憑いたわけではなさそうだし、原因がわからないと対処が難しい類かもしれない」
ロンはアルフたちの背中を見つめて眉間に皺を寄せた。
「俺もこのところ毎晩祓ってはいるんだけどな。今日は特にひどいな」
「そうなのか。とすると何か持ち物が影響しているかもね。調べられるかな」
「聞いてみる」
ロンはアルフに声をかけ、隣にあるもう一つの仮眠室へ連れ出した。
「どうしたの、ロンさん」
「それはこっちのセリフだ。お前、顔色悪いぞ。お前も少し休め」
そう言って、仮眠用のベッドにアルフを促した。
「こっちにもベッドがあるんだね。すごい」
「あっちはお客様用だし、女の子と同じ部屋にはちょっとな。従業員用のこっちで悪いけど。あ、横になる前にちょっと座ってくれ」
アルフは大人しくベッドに座った。気怠げで、背中が曲がっている。ロンはお湯をタオルに含ませて絞り、アルフに近寄った。アルフは目の前に立ったロンをぼうっと見上げて首を傾げた。
「脱いで」
「えっ」
「汗かいてるだろ。冷えると良くないから」
ほら早くとロンに促されて、アルフはドギマギしながらも大人しくシャツのボタンを開け始めた。下着も脱いで上半身裸になったアルフを、ロンは丁寧にタオルで拭いていく。一通り拭き終えると、立ち上がってクローゼットを開けた。中から従業員用の替のシャツを取り出すと、アルフに放り投げる。
「それ、着とけ」
アルフが脱いだ下着とシャツをハンガーにかけて部屋の隅に吊るすと、ロンは振り返った。アルフはシャツのボタンを閉めて、横になろうとするところだった。
「じゃあ、俺はちょっと店に戻るけど、またすぐくるから寝て待ってろ」
こくこくと頷くアルフを確認して、ロンは部屋を出た。
閉店を少し前倒ししてバックヤードに集まったジオたちGarden Spiritsの面々は、ミーティングルームで二つの仮眠室の様子を監視カメラ越しに確認しつつ簡単に状況を共有した。
「マイルドちゃんはアルフの影響かと思ってたけど、どうも違うみたいだな。今はアースくんに様子を見てもらっているけど、アルフと引き離しても体調は回復していないし。それにさっき軽く祓ったけど効果はなかったから、おそらく物か何かに呪いが仕込まれていると思う」
ディーンの言葉に、ジオが口を開いた。
「このメンバーで感知型は俺しかいないし、俺が様子を見てくるよ」
「頼むよ。アルフの方はどうだい」
「身につけているもので怪しいものはなかった。荷物はまだ確認できていないから、ジオ、後で見てくれるか」
「わかった」
「グレン、ジオのバックアップを頼むよ。除霊が必要になるかもしれない」
「あいよ。やっと俺の出番が来たかぁ」
ぐるぐると肩を回すグレンと共にジオはミーティングルームを出た。
ジオとグレンが客用仮眠室へ入ると、マイルドは横になっていた。ジオは眉を顰める。見慣れない紅いアクセサリーがマイルドの首元にあった。
「アース、悪いが席を外してくれるか。ちょっとマイルドちゃんに聞きたいことがあるんだ」
「わかった。廊下で待ってるね」
グレンと共にアースが廊下へ出たのを確認すると、ジオはベッド脇の椅子に腰掛けた。
「具合はどうかな」
「ちょっと、良くなったみたいです。ありがとうございます」
そう言いつつも、マイルドの顔色は優れない。
「俺たち、まだ仕事があるからもう少し休んで待っててもらえるかな。アースと一緒に家まで送っていくよ」
「いえ、そんな。大丈夫ですから」
「心配なんだ。送らせて?」
ジオが優しく笑いかけると、マイルドは渋々と頷いた。
「よし。じゃあそういうことで。そうだ、そのアクセサリー、外したほうがいいんじゃないかな。痛くない?」
ジオの言葉に、マイルドははっと首元に触れた。まるでそのアクセサリーに初めて気が付いたかのようだ。
「そうですね。外してみます」
マイルドは肘をついて起き上がると、首元をいじった。が、なかなか外せない。
「手伝うよ。ちょっといいかな」
ジオが手伝いを申し出ると、マイルドは大人しくジオに背を向けた。ジオがネックレスの金具に触れるが金具が動かない。何度か試しているうちに、マイルドの息が上がり始めた。ジオははっとしてマイルドの顔を覗き込んだ。首が絞まっているかのように首元に両手を持ってきてネックレスを下げるような仕草を見せるマイルドに、ジオは険しい表情で監視カメラの方を一瞬振り返ったのち、マイルドの苦しそうな目をみて肩に触れる。
「ごめん」
一言、ジオは呟くと目をそっと閉じた。そして次の瞬間に目を開いたときにはジオの瞳はいつもの茶色ではなく、ブルーとグレーのオッドアイになっていた。
マイルドの首元右側にジオは顔を寄せ、ネックレスを思い切り噛みちぎった。直後、ネックレスから禍々しい気が立ち上り、霧散する。マイルドは一気に咳き込んだ。
徐々に呼吸が落ち着いてきたマイルドは、ジオの顔を見て驚いたように目を見開いた。
「どこか……痛いところはない?」
オッドアイのジオはマイルドの背をさすり、自身も肩で息をしながら優しく問うた。マイルドはその優しく気遣う瞳と声音にどきりとした。と同時に、強烈な眠気がマイルドを襲った。
「大丈夫です……でもすごく……眠い……」
マイルドはオッドアイのジオの胸元に頭を預ける。そっと髪を撫でられ、瞼が自然に落ちていった。眠りに落ちる前、マイルドは優しい声を聞いた気がした。
「夢だよ。眠れ」
再び、Garden Spiritsの面々はミーティングルームに集まった。マイルドは深く眠っており、アースがそばで宿題をしながら様子を見ている。アルフは6時半ごろになると、撮影があるからと言って店を出て行った。
マイルドが首につけていたネックレスは、真ん中についていた石が割れ、鎖はちぎれ、見るも無惨な姿になっていた。ジオがみたところ、もうモノは憑いていないらしい。
「写真は撮ったし、悪用されないように燃やしてしまったほうがいいだろうね」
ディーンの言葉に、グレンはウキウキと処分用のものが入った袋にネックレスの残骸を片付ける。後で裏庭の専用スペースでまとめて処分するのだ。燃える類いのものは火の精霊で浄化するが、金属などの燃えないものは水の精霊の力で浄化されたのちにリサイクルセンターへと送られる。
「呪いの類なのはわかってるけど、問題は誰がやったかだね」
呪いを媒介する物を破壊しても、大元が断たれない限り同じことが繰り返される。それどころか、より強力な呪具が使われてしまうケースも多い。アルフの件と同様、できるだけ早く犯人を見つける必要がある。
「ジオはマイルドちゃんが目を覚ましたら、どこで買ったのか、それか誰からもらったのか聞いておいて欲しい」
ジオは黙って頷いた。瞳はいつもの焦げ茶色に戻っている。
「それから、この前ロンが見つけてきたアルフくんへの呪いの件だけど」
そう前置きして、ディーンはディスプレイに先日キーホルダーの中から見つかった紙を映し出した。
「これはやっぱり呪いではあるんだけど、アルフくんの名前はかかれていなかった。持ち主を呪う類いのものだったんだ。犯人は直接的な知り合いじゃない可能性がある」
ディーンの説明にロンは首を傾げた。
「アルフは知り合い以外からのプレゼントは受け取らないって言ってたぞ。前にGPSが仕込まれていて事件になったことがあるからって」
「そうすると、あのキーホルダーはやっぱり知り合いからだったってことか。でも、アルフ個人を狙ったわけじゃない?」
グレンの仮説をジオは否定した。
「そうとも限らないだろ。アルフに渡してるんだから」
それもそうだな、とグレンは腕を組んで唸った。
「もしこれが、仮にだぞ、無差別だとしたらエラいことだぞ……」
グレンの言葉に、ディーンたちは険しい顔で黙り込んだ。
数秒ののち、沈黙を破ったのはロンだった。
「そうだ、ルイスについて何かわかったことはあるか?」
「いや。住んでいるところぐらいだよ」
「どこだ?」
ディーンが地図を表示させ、ポインタで示すとジオとロンは顔を見合わせた。
「そこって……」
そこは、ジオとロンがパトロールの帰りに立ち止まったアパートだった。
アルフは次々とフラッシュが焚かれる中、スタジオでポーズを取っていた。その首元には、紅い石の嵌ったネックレスがあった。
強がって撮影に来たものの、アルフはどんどん強くなる頭痛に内心で後悔していた。
(次の休憩になったら頭痛薬を飲まなきゃ……)
「よし! いったん仕上がりを確認するからちょっと休憩してて!」
監督の声に、アルフはほっと息を吐いて用意された席へ向かう。数歩進んだのち、アルフは目眩に襲われた。視界がグルンと回転し、身体から力が抜けて尻餅をつく。ドシンと尻に衝撃があったが、どこか遠い感覚でアルフの意識はすうっと遠のいて行った。