朝、学校へ行くとさっそく香恋が話しかけてきた。
「奏汰ー!おはよう」
「お、おはよう」
 僕は戸惑ってしまった。
 そうするとクラスメイトの女子が僕に向かって言った。
「ねえ、森中君明るくなった?」                          
「え、そう?」
 僕はそんな気がしなかった。
 いつも通り人と関わらずにいる。
 そんな僕のどこが明るいのかさっぱりわからない。
 香恋のように上手く笑顔もできない。               
「僕のどこが……?」                              
 僕は思わずつぶやいていた。
 幸いなことに誰も聞いていなかった。       
「風間さんみたいに笑えたらもっと楽しい人生なのかな……」            
 そんな淡い希望はもうとっくに捨てていたはずなのに……僕の頭の片隅にはどうやら残っていたようだ。                              
 父親を亡くしてから、母親も仕事が忙しくなり、話すことも少なくなってしまった。
「父さんがいれば……」                                                         
 父さんがいればどんなに楽しい人生だったか。
 僕は考えるのをやめた。             
「もう終わったことだし……」                         
 そうだ。前のことは巻き戻しができない。
 だから、楽しいことだけ考えていたいが、僕は父親のことが忘れられない。
 前のように楽しく過ごしていたい。
 そう願ってしまう。