余命一年の君に流星のような恋をした

「ねぇ、森中(もりなか)君なんか怖くない?」
「森中君ってなに考えてるかわからないし、ちょっと怖いよね」
 クラスメイトはいつも僕のことを話している。
 僕は、幼い頃に病気で父親を亡くした。
 それからまた、大切な誰かがいなくなってしまうのではないかと思い人と関わらずに生きてきた。                              「花に水やり……」
 そうつぶやいたその時。                           
「うわっ!」                         
 誰かとぶつかってしまった。                                
「いてて……ごめんなさい!大丈夫?」                         
 あの子は、同じクラスの風間(かざま)香恋(かこ)だ。
 彼女はいつも笑顔で明るくクラスでは人気者だ。
 去年は、一ヶ月しか学校に来なかったとクラスメイトが言っていた。
 何があったのかは誰も知らない。香恋はいつの間にかいなくなっていた。
 すっかり忘れていた、花に水やりをすることを。
 「……え、風間香恋?」                             
 思わずつぶやいてしまった。
 香恋は花に水やりをしていた。
「あれ?さっきの……あ、さっき平気だった?ごめんね。私、水やり忘れてたから急いでて……」                 
「大丈夫です……あの、なぜ水やりを?」
 水やりは僕がやっていることだ。
「私、花が好きなんだよね。それと、先生に頼まれたの。いつも君がやっているんだね」                               
「うん……」                                     
「あ、ねぇ、君の名前聞いていい?私は、風間香恋だよ。まあ、同じクラスだしわかるか」                                 
「森中奏汰(かなた)です……」                             
 僕は俯いて言った。                                
「奏汰って呼んでいい?私は香恋でいいよ!あと、同じクラスだし敬語じゃなくていいよ。堅苦しいじゃん?」
 そう言って彼女は笑った。                                                         
「うん……よろしく」                                                        
「あ、もう予鈴なった!行こ、奏汰!」                    
 奏汰は香恋に腕を引っ張られて教室に戻った。
 教室の中を見渡すとクラスメイトが目を見開いてこっちを向いていた。                      
「……ねぇ、森中君、香恋と一緒にいたのかな?」                   
「でも、なんで一緒にいたのかな。いつもこの時間、森中君いないじゃん」                    
 クラスの全員がひそひそと話している。
 クラスメイトはこの時間、僕が水やりをしていることを知らない。
 知ってるのは……香恋だけ。