この日まで、僕たちは何度も家と秘密基地を往復して、必要な食料だとかあたたかい毛布だとかをどうにかこうにか運び込んでいた。立て篭もるための準備は万全だった。
「ゼロをここに連れてくるって約束、まさかこんな形で叶うなんてね」
そうなのだ。僕もミカちゃんも、ゼロという仲間が増えてからは不思議とこの秘密基地に入り浸らなくなっていた。
ゼロがクラスの子達からしょっちゅう遊びに誘われるという理由もあるにはあったけれど、それまでは僕もミカちゃんもなんとなくクラスの友達に上手く馴染めていなかったところがあった。
大きくなるにつれて女の子は女の子っぽい話題や遊びが好きになるし、男の子は有り余るエネルギーを発散するみたいにやたらと外で遊びたがった。
しかしミカちゃんは女の子っぽいことが苦手だったし、僕も外で泥だらけになって遊ぶようなことは苦手だった。
そういうわけで、僕やミカちゃんは少しずつクラスの中で居心地の悪さのようなものを感じるようになっていた。
それはいじめのような陰湿で重々しいものではなくて、買ったばかりの服のタグが首のあたりでちょっとチクチクするとか、本当にその程度の些細な気がかりだったのだ。
でも、たったそれだけのことでも、なんとなく離れるという選択の理由には十分になり得た。
ゼロはそんな僕たちの前に突然現れて、色んなわだかまりみたいなものを突然ポイと放り捨て、僕らをみんなの輪の中に無理矢理引き戻してしまった。
だから逃げ場所としても機能していたこの秘密基地に来る理由がなくなったというのはあるのかもしれない。まあそれは全てが終わったあとから気付いたことなのだけれど。
「大輔、ミカ、本当にいいの?」
ゼロがきいた。それには僕もミカちゃんも頷いた。答えたのはミカちゃんだった。
「うん、いいの。このままだと私たち、ゼロとお別れしなくちゃいけなくなっちゃう。私と大輔はゼロとこれからもずっと一緒にいたい。だから今、ここにいるんだよ」
ゼロはそれを聞いてとても幸せそうな顔をしていた。言葉を噛みしめるように、胸のあたりでぎゅっと握りしめている。
「ぼくも、二人と一緒が好き。二人のことが大好き」
僕はまた泣きそうになった。
どうしてこんなに無邪気で善良な彼を大人達は平気で消そうなどと思えるのだろう。
僕もミカちゃんもうっかりすると本当に泣いてしまいそうだった。僕はゼロの冷たく硬い体をぎゅっと抱きしめた。
「僕も、ゼロが大好きだ。ぜったい、守るからね。ずっとずっと、一緒だからね」
ゼロは戸惑ったように僕の体を抱き、ありがとうと言った。