学校に着いた。学校に来る途中、スマホで神奈神社の場所を調べたところ、ここからさほど遠くない場所にあることが分かった。日没前には、到着するだろう。

 校門をくぐって、花火達を探す。その途中で、何人かのクラスメイトに声をかけられた。いつも清涼と一緒に遊んでいる連中だ。

「ライブ見たよ。涼風くんて意外に歌上手なんだね」

「ああ、びっくりしちゃったよ。凄いんだな」

「うん、ありがとう。じゃあ今度清涼と一緒にカラオケにでも行こっか」

 以前の僕なら、相手にしなかっただろう。友人を作るなんて、もってのほかだったからな。

「おっ、いいね。そん時はコツ教えてくれよ」

 彼らと軽く会話を済ませてから、僕は再び花火を探す。

校庭の隅。木陰にあるベンチに、清涼と立夏と共に花火はいた。

 僕はベンチまで走って行き、花火に声をかける。

 木陰に入り、陽射しが遮られる。丁度良い涼しさで、居心地の良い場所だ。

「花火。パワースポットの場所が分かったよ。行こう」

 彼女の瞳を見つめて、一言一言、噛み締めながら言った。

 これを言ってしまったからには、花火と過ごせる時間は僅かしかない。

 言われてから、花火は俯いた。名残惜しそうに清涼と立夏、そして、僕への順に瞳を向けた。

「分かりました。行きましょう」

 短く言ってから、花火は立ち上がった。そして、立夏や清涼の方へ視線を向ける。 

「お二人も、一緒に来てください。沢山、お世話になりました。言いたいことは、山ほどあります」

 花火の申し出を、二人は断った。立夏は首を振って、清涼は手で制した。

「最後なんだし、二人っきりになりなよ。二人じゃなきゃ話せないことだって、あるでしょ?」

「ああ、俺もそう思う。俺達は一緒にライブをやれただけで満足だよ。本当に、今までありがとう」

 そう言ってから、二人は立ち上がる。立夏は花火に抱きついて、清涼は力強く握手していた。

 立夏はしきりに瞬きをしていて、清涼は声が上ずっている。

 二人とも、別れが悲しいんだ。

「ありがとう……ございます……こんな風に言ってもらえるなんて……私、本当にこっちの世界に来て良かった」

 花火も笑う。そして、立夏と清涼に手を振った。

「それでは、また」

 そう言い残して、僕と神奈神社へと向かった。

 この時、僕は何も気にしていなかった。花火にあった違和感を、「また」という言葉を選んだ意味を、全く、理解していなかった。

 僕の一生忘れることのない一夏の物語が、終わろうとしていた。