翌日――僕達四人は、体育館のステージ裏で円陣を組んでいた。

「いよいよね」

「ああ、ここまで来たらもう逃げられねえな」

「私、今とてもドキドキしています」

「うん。僕もドキドキしてるよ。絶対に成功させような!」

 全員で気合を入れてそれぞれの背中を叩く。紅葉マークがつくんじゃないかってくらい本気で叩かれて、身体がブルブルと震えた。これがきっと、武者震いってやつだろう。

 元々は面をつけて出演する予定だったが、それは辞めた。花火との最後の思い出を、自分の顔で、何も飾らずに、何も隔てずに、全身全霊で作りたいと思ったからだ。かけがえのない、最高の思い出にするために。

 前のグループの演奏が終わり、体育館内は歓声に包まれた。

 幕が降りて、前のグループが帰って来る。メンバーはそれぞれやり切ったとい表情をしていて、気分が良さそうだ。

 それを見てもう一度気合を引き締める。

 ステージ裏からステージの表へと移動し、幕の前に立った。

 中心にボーカルの花火が立ち、右側にベースの僕、左にギターの立夏、後方にドラムの清涼という位置取りだ。

 みんなそれぞれが集中して、真剣な表情を見せている。

 チューニングを確認して、幕が上がるのを待った。

 ここまで来たらやるしかない。絶対に忘れられない思い出を、作るんだ。

「さあて! 続いては『RADWIMPS』の皆さんです!」

 バンド名が叫ばれて、幕が上がる。

 ステージライトが僕達を照らし出す。今まで経験したことないほど沢山の視線が、僕達に集まっていた。

 今、この場では間違いなく僕達が主役だ。

 今まで人との関わりを避けて来て、目立つことなんてしてこなかった僕が、みんなの視線を集めている。

 喜びもなければ悲しみもない、そんな人生とは今日でお別れだ。

 清涼、立夏、花火。今このステージに立っているみんなが、僕を変えてくれた。

 よし、やってやる。

 花火が右腕を高らかに突き上げて叫んだ。

「RADWIMPS! 会心の一撃!!!」

 叫びと同時に、立夏がギターをかき鳴らす。

 僕達のライブが、始まった。

 花火が力強く、丁寧に歌い出し、再び歓声が上がった。

 音が幾重にも重なって会場中を震わせている。

 気分が高まっていき、周りの景色がチカチカと光って見えた。

 約束通り、ワンフレーズ毎に交互に歌う。

 歌詞の一言一言が、心に染み込んで来る。

 本当に、僕の生きる世界は、未来は、変わった。
 最後のサビを花火と共に歌いきって、ベースに集中する。歌詞が終わっても、まだ曲は終わっていないんだ。

 最後まで、集中を切らしてはいけない。

 立夏と清涼と合わせて、弦を弾く。後を引くような余韻が残り、音楽が終わった。

 拍手喝采が、指笛の音が、聞こえて来る。だけど、そんなのは全く気にならなかった。

 僕は肩で息をしながら、メンバー四人と視線を合わせていた。

 この視線の絡み合いを、僕は一生忘れないように記憶に焼き付けた。きっと、みんな同じことを思っているだろう。

「あー、えー、皆さん! 一曲目、ありがとうございました!」

 花火が汗を拭いながら喋り出す。初めて会った時とは比べ物にならないくらい生き生きとした声だ。

「次の曲は、私のことを変えてくれた、私を引っ張り出してくれた人のために歌います」

 そう言って、花火は僕の方を向いた。瞳があって、ドキッとする。僕のことを、言ってくれているのだろうか。

「聞いてください。ふたりごと!!!」

 花火の優しい歌声と、立夏の滑らかなギターの音が、柔らかな音を奏でる。柔らかな音に、清涼のドラムが力強さを加える。

 そんな様子を、僕は黙って見ていた。

 これが、みんなで何かを成し遂げる感覚だ。この感覚を、思いを僕は一生忘れない。

「俺は地球人だよいや、でも仮に木星人でもたかが隣の星だろ? 一生で一度のワープをここでつかうよ」

 花火が歌いながら僕の方へ視線を送ってくれた。

 一生に一度しか来れない世界の中で、彼女は僕を見つけてくれた。それが本当に嬉しかった。

 曲が終わり、幕が降りて来る。

 観客達が、僕達に向かって盛大な拍手を送ってくれた。

 周りの景色が輝いて見える。

 ああ、本当に、花火と出会えて良かった。

 でなければ、こんな感覚は味わえなかっただろう。

 幕が完全に降りる。それでも、この高まった気分は収まらない。

 僕達はみんなで視線を合わせて、ステージ裏へと移動する。

 そして、みんなで抱き合った。

 最高だった。本当に。最高だった。
 みんなで、ただそれだけを繰り返し繰り返し言っていた。