それからしばらくして、清涼と立夏が我が家へついた。

 立夏が心配そうに僕を見つめていたので、彼女に近づいて「ありがとう。立夏のおかげで、何とかなったよ」とお礼を伝えた。立夏には感謝してもしきれない。

 それから、僕達はベランダへと出て打ち上げ花火をみんなで眺めた。

 笛のような音が鳴り、空へと打ち上がる。そして、美しい花を夏の夜空に咲かせた。祭り会場で見るよりも小さかったが、みんなそんなことは気にしていなかった。

 その場にいた誰もが、笑顔で打ち上げ花火を見ている。みんな、つきものが落ちたかのように、清々しい笑顔をしていた。

 最後の花火が打ち上がる。夏の夜空に溶け込むように透明になっていき、儚く消えた。

「いい花火だったね」

 夜空を見上げながら、立夏が言った。

「はい! みなさんが言っていたようにとても綺麗でしたね」

「これで明日のライブも頑張れるな。ところで、花火ちゃんの体調は大丈夫なのか? 明日、厳しそうなら無理しなくてもいいんだよ」

 元気よく笑う花火を見て、清涼が疑問に思ったのだろう。発作が起こった直後なんだ。不思議に思わない方がおかしい。

「そう、だね。無理をしないのが一番だよ」

 立夏も一瞬だけ言葉に詰まっていたものの、花火を心配しているようだ。

「体調の方は大丈夫です。発作は落ち着いてしまえばいつも通りに動けますし、病み上がりみたいな気怠さとかもないので、明日はバッチリです」

 そう言って花火は小さな力こぶを作ってみせる。夏祭りの時の涙が嘘のように元気になっていた。

 これが空元気なのか本当の元気なのか分からない。ただ、後悔のないように生きようとしていることだけは分かる。

 これが花火が選んだ選択だ。

「ただ、そうですね」

 花火は僕の方を見ながら悪戯に笑う。

「もしかしたら声が出なくなるかもしれないので、太陽くんにもボーカルを手伝って欲しいなぁなんて思ってます」

 僕は一瞬だけ花火が何を言っているのか分からなかった。その言葉を聞いた立夏と清涼がクスクス笑いだす。

「いいねそれ。名案だよ」

「ああ、俺もそう思う」

 立夏と清涼に見つめられ、僕は一歩二歩と後ずさった。

「え? それ、僕も歌うってことでしょ。無理無理。僕学校でそんなことできないよ!」

「今日太陽には色々迷惑かけられたから、それくらいはして欲しいね」

 目尻に涙を浮かべて笑いながら、立夏が言った。

「はい。一度でいいからやってみたかったんですよ」

 立夏と花火にそう言われては、断ることはできない。全く、本当にずるい人達だ。

「分かったよ。明日、僕も歌うよ」

 僕は小さくため息をついてから、そう言った。

「じゃあもういい時間だし、夏乃さんにも悪いから帰るか」

 清涼がみんなに言いながら僕の方へ歩いてくる。そして、僕の胸に拳を当ててきた。

「明日、頑張ろうな」

「うん。頑張ろう」

 短く返して、僕達は決意する。明日は絶対に、後悔のない日にしようと。

 最高の一日にするんだ。絶対に。それが、僕の使命でもある。

 色んな人に支えられてここまで来た。花火に、最高の一日をプレゼントしたい。

 帰って行く清涼と立夏の背中を見ながら、僕はそう決意を固めた。それが、立夏への恩返しにもなるんだと信じて。