「――――と、まあそういうことなんだ」
夏乃の話を立夏と清涼は黙って聞いていた。
花火の病気の話。彼女が並行世界から病気を治すためにこちらへ来ている話。喜びの感情を溜めなければならない話。彼女を泊めてあげている話。太陽が「もう無理だ。花火を頼んだ」と言って逃げ出した話。
それら全てをありのまま話した。
「まさか、そんなことになっていたなんて」
立夏が口元を押さえながら呟いた。
「ああ、全然気がつかなかった」
清涼も口元を歪めている。
「太陽くんの件。多分、私のせいです」
花火が、俯きながらそう呟く。
恐らくはそうなんだろうと夏乃も思っていた。だが、今ここで花火のせいだと言えば花火がそれを背負って自分を責めかねない。それだけは避けたかった。だから、軽々しくそうだとは口に出せない。
「いや、花火ちゃんは何も悪くないよ。ただ太陽の奴が情けないだけさ。全く、こんなに可愛い子を放って何をしてるんだか」
夏乃はわざとらしく大きなため息をつく。それから彼女は立夏と清涼の方へと向き直った。
「そこで一つ。君達にお願いがあるんだ」
夏乃は指を一本立てる。
「あのバカを……太陽を見つけ出して連れ帰って来てほしい。まだあまり遠くには行ってないと思うんだ。まだ色々混乱してて大変だとは思うんだけど、いいかな?」
立夏と清涼は深く頷いた。
「分かりました」
「任せてください」
力強い返事が聞こえてくる。
夏乃は笑顔を見せて「ありがとう」と呟いた。
太陽の友人はいい子ばかりだと、夏乃は内心でほくそ笑む。
「あの、私も行きます」
花火がその話に割って入った。しかし、彼女の体調はまだ万全とは言えない。
「私ならもう大丈夫です。探しに行けます。人は多い方がいいはずです」
「いや――――」
「花火ちゃんはゆっくり休んでて大丈夫だよ」
夏乃の言葉を遮るようにして、立夏が一歩前に出る。
「ほら、やっぱりさ、一番大事なのは自分の身体だから、無理しない方がいいよ。だから、待ってて。大丈夫。絶対に見つけ出してくるから。それで、一緒に打ち上げ花火を見よう。私、楽しみにしてたんだ。今日のこと。今ここで無理をして、また倒れたら太陽が悲しむよ。私は、みんなで笑って打ち上げ花火を見たいんだ」
朗らかに笑いながら、立夏は自分の胸に手を当てる。
恐らく、今の彼女では太陽の気持ちを振り向かせることはできない。花火には、適う気がしなかった。それでも良いと、彼女は思う。みんなで笑って明日を迎えられるなら、なんだって良いと思えた。そして、ほんの少しでいいから太陽の記憶の片隅に自分のことが残っていれば嬉しい。
「俺からも、お願いするよ」
清涼も一歩前に出て、花火を見つめる。清涼もほとんど立夏と同じ思いを持っているが、それとはまた違った別の思いもあって、花火にお願いしていた。
清涼は立夏に幸せになって欲しいと思っている。自分に振り向いてくれなくとも、立夏に笑っていて欲しいと思っている。だから、今回くらいは立夏のターンでも良いじゃないかと、そんな気持ちが彼にはあった。彼女の笑顔を、見ていたいからだ。
二人にそう言われ、花火は胸がいっぱいになった。
誰かに心配されて、必要とされるなんて、元の世界では考えられなかったからだ。
この人達になら、甘えてもいいかもしれない。花火はそう思った。
「あ、ありがとう、ございます」
「うん! 任しといて!」
控えめな花火の声を聞いて、立夏がどんと胸を叩いた。
「悪いね、君達。私は花火ちゃんの容体が悪くならないよう見てなくちゃいけないから、頼むよ」
「大丈夫ですよ」
心底申し訳なさそうにしている夏乃に、清涼が丁寧に言葉を返す。
「「では、行ってきます」」
二人揃って言ってから、彼らは玄関へと向かった。そんな二人の背中を見て夏乃は「ありがとう。本当にありがとう」と呟いた。先程からそれしか言えていない夏乃だったが、本当に、それ以外に言葉が見つからなかった。
夏乃の話を立夏と清涼は黙って聞いていた。
花火の病気の話。彼女が並行世界から病気を治すためにこちらへ来ている話。喜びの感情を溜めなければならない話。彼女を泊めてあげている話。太陽が「もう無理だ。花火を頼んだ」と言って逃げ出した話。
それら全てをありのまま話した。
「まさか、そんなことになっていたなんて」
立夏が口元を押さえながら呟いた。
「ああ、全然気がつかなかった」
清涼も口元を歪めている。
「太陽くんの件。多分、私のせいです」
花火が、俯きながらそう呟く。
恐らくはそうなんだろうと夏乃も思っていた。だが、今ここで花火のせいだと言えば花火がそれを背負って自分を責めかねない。それだけは避けたかった。だから、軽々しくそうだとは口に出せない。
「いや、花火ちゃんは何も悪くないよ。ただ太陽の奴が情けないだけさ。全く、こんなに可愛い子を放って何をしてるんだか」
夏乃はわざとらしく大きなため息をつく。それから彼女は立夏と清涼の方へと向き直った。
「そこで一つ。君達にお願いがあるんだ」
夏乃は指を一本立てる。
「あのバカを……太陽を見つけ出して連れ帰って来てほしい。まだあまり遠くには行ってないと思うんだ。まだ色々混乱してて大変だとは思うんだけど、いいかな?」
立夏と清涼は深く頷いた。
「分かりました」
「任せてください」
力強い返事が聞こえてくる。
夏乃は笑顔を見せて「ありがとう」と呟いた。
太陽の友人はいい子ばかりだと、夏乃は内心でほくそ笑む。
「あの、私も行きます」
花火がその話に割って入った。しかし、彼女の体調はまだ万全とは言えない。
「私ならもう大丈夫です。探しに行けます。人は多い方がいいはずです」
「いや――――」
「花火ちゃんはゆっくり休んでて大丈夫だよ」
夏乃の言葉を遮るようにして、立夏が一歩前に出る。
「ほら、やっぱりさ、一番大事なのは自分の身体だから、無理しない方がいいよ。だから、待ってて。大丈夫。絶対に見つけ出してくるから。それで、一緒に打ち上げ花火を見よう。私、楽しみにしてたんだ。今日のこと。今ここで無理をして、また倒れたら太陽が悲しむよ。私は、みんなで笑って打ち上げ花火を見たいんだ」
朗らかに笑いながら、立夏は自分の胸に手を当てる。
恐らく、今の彼女では太陽の気持ちを振り向かせることはできない。花火には、適う気がしなかった。それでも良いと、彼女は思う。みんなで笑って明日を迎えられるなら、なんだって良いと思えた。そして、ほんの少しでいいから太陽の記憶の片隅に自分のことが残っていれば嬉しい。
「俺からも、お願いするよ」
清涼も一歩前に出て、花火を見つめる。清涼もほとんど立夏と同じ思いを持っているが、それとはまた違った別の思いもあって、花火にお願いしていた。
清涼は立夏に幸せになって欲しいと思っている。自分に振り向いてくれなくとも、立夏に笑っていて欲しいと思っている。だから、今回くらいは立夏のターンでも良いじゃないかと、そんな気持ちが彼にはあった。彼女の笑顔を、見ていたいからだ。
二人にそう言われ、花火は胸がいっぱいになった。
誰かに心配されて、必要とされるなんて、元の世界では考えられなかったからだ。
この人達になら、甘えてもいいかもしれない。花火はそう思った。
「あ、ありがとう、ございます」
「うん! 任しといて!」
控えめな花火の声を聞いて、立夏がどんと胸を叩いた。
「悪いね、君達。私は花火ちゃんの容体が悪くならないよう見てなくちゃいけないから、頼むよ」
「大丈夫ですよ」
心底申し訳なさそうにしている夏乃に、清涼が丁寧に言葉を返す。
「「では、行ってきます」」
二人揃って言ってから、彼らは玄関へと向かった。そんな二人の背中を見て夏乃は「ありがとう。本当にありがとう」と呟いた。先程からそれしか言えていない夏乃だったが、本当に、それ以外に言葉が見つからなかった。