「太陽達いるといいね」
「いたらいたで約束破ってるから問題だけどな」
清涼の言う通りだと思って、立夏は「あはは」と笑った。
今現在彼らは太陽の家の前まで来ている。以前来た時のように、インターホンを押すのに緊張はない。
ここ数日一緒に過ごして来たから、確実に彼と近づけているという自信があったからだ。
ベルを鳴らすと、ドタドタという音が聞こえて来た。そんなに慌ててどうしたんだと立夏が思っていたら、勢い良く扉が開けられた。
「あ、やあ。久しぶりだね」
出て来たのは太陽の姉――夏乃だ。彼女は普段では見られないほどに焦っていて、立夏と清涼はその様子に面食らった。
「あの、太陽くんいますか? 一緒にお夏祭りに行く約束をしていたんですけど、来てなくて、心配になって迎えに来たんです」
「心配してくれてありがとう。そうだな、ちょっと話したいから、上がってくれるかな? お茶でも飲んでいってくれ」
夏乃の対応に、再び立夏は面食らった。太陽が家にいると思っていたから。それに夏乃の伏せ目がちな表情に嫌な予感がした。
「あ、あ、」
「ありがとうございます!」
立夏が何も言えないでいると、清涼が元気良くお礼を言って夏乃の後に続いた。
「ほら、行こうぜ」
清涼が右手を差し出してくれていた。
「う、うん」
立夏はその手を掴んで、太陽の家の中へと入る。
「そんな心配すんなよ。太陽なら大丈夫だ。ほら、それに、俺もついてる」
そう言って、清涼は下手くそな笑みをみせた。
居間に通されて、テーブルに座る。夏乃が麦茶をお盆に乗せてやって来た。
「まあ、それ飲んでよ」
夏乃がコップをテーブルに置いて、椅子に座った。
「太陽を呼びに来てくれたんだよね。うーん。そうだな。なんて言えばいいのかな」
夏乃は顎に手を当てて、言葉を選んでいる様だった。
「まあ、単刀直入に言っちゃうと、あいつは逃げ出したんだよね」
立夏は自分の頭が真っ白になるのが分かった。自分達はまた避けられたのかと。それどころかもしかすると今まで嫌々付き合ってくれていたののかもしれない。そう思うだけで、胸が締め付けられる。
「え、それって……」
「ああ、勘違いしないで欲しい。あいつはちゃんと夏祭りには行ったんだよ。それで、まあ、なんて言うのかな、戻ってこないといけない事態になったんだ」
安心してくれと言わんばかりに、夏乃は微笑んだ。
作り物めいた笑みだ。この人でもこんな笑顔を作る時があるのかと、立夏は思う。
夏乃の言葉を聞いて、立夏はひとまず胸を撫で下ろした。
それと同時に、疑問に思う。それなら、なぜ太陽は逃げ出してしまったのかと。
「あのー。家に戻って来たのと、逃げ出したのには何か関係があるんですか?」
立夏が思っていた疑問を、清涼が口に出してくれた。
そう問われた夏乃は困った様な顔をしていた。何と言えばいいのか分からないというよりも、どう誤魔化そうかと考えている様だった。
「うーん。どうすればいいのかな……」
夏乃がガシガシと頭をかいていた時だ。ガララッという音と共に居間の戸が開けられた。
「「――――っ!!!」」
入って来た人物の姿を見て、立夏と清涼は息を呑んだ。
清涼は瞳を見開いて、立夏は口元を手で覆っていた。
夏乃も、天井を仰いで目元に手を当てている。
部屋に入って来たのは、青井花火だ。
花火はとても深刻そうな表情で壁にもたれかかるようにして立っていた。
彼女は上着を着ておらず、上は下着のみの格好だ。
正確には、下着で隠れているはずの胸が、半分存在していなかった。
彼女の半身はもう既に、透化病の魔の手に侵されているということだ。
「どうしましょう……ついに身体の半分が……」
震える声で、花火は呟いた。言ってから、清涼と立夏の存在に気がつく。
花火は小さく声を漏らして、上半身を隠すようにしゃがみ込んだ。
「こ、これ、どういう……」
理解が追いつかないといった様子で立夏が瞳を泳がせた。目のやり場に困ったのだ。最後には縋るようにして清涼に視線を送った。
「どうって、言われても、俺にも分からないよ」
清涼も信じられないといった様子だった。説明してくださいという思いを込めて夏乃に視線を送る。
夏乃にとって、ここで花火が起きてくることは予想外の出来事だった。花火の身体は現在、上半身は胸の半分まで、下半身は太腿までが透化病の魔の手に侵されている。
身体を拭いている時にそれは確認していた。
だから、起きて来た時に何と声をかけるべきか考えていたのだが、最悪の形で花火が目覚めてしまった。
花火自身も焦って誰かに縋り付きたかったのだろう。普段では取らないような行動を取ってしまった。
清涼と立夏は太陽の捜索を頼むために家に上げた。失踪の理由は花火関連だと嘘と本当を混ぜて上手く話すつもりだったのだが、花火が起きてきた事により計算が全て崩れた。
「花火ちゃん。良いよね?」
夏乃は立ち上がってから壁にかけてあったカーディガンを取る。そのまましゃがみ込む花火のところまで歩いて行き、彼女にカーディガンを羽織らせた。
花火は夏乃の言いたい事をすぐに理解したらしく、こくんと頷いた。
「ありがとう。後は私が説明しておくから、花火ちゃんは今はゆっくり休んでおいて」
二階に連れて行こうと夏乃が立ち上がると、花火はかぶりを振った。
「いえ、大丈夫です。この事を説明するのに、私がいないというのはいけない気がしますから」
花火の力強い瞳に見つめ帰され、夏乃は少したじろいだ。
「そうか……そうだね。じゃあ、太陽の事も含めて、説明するよ」
夏乃はそう言ってから、立夏と清涼の方へ向き直った。
「いたらいたで約束破ってるから問題だけどな」
清涼の言う通りだと思って、立夏は「あはは」と笑った。
今現在彼らは太陽の家の前まで来ている。以前来た時のように、インターホンを押すのに緊張はない。
ここ数日一緒に過ごして来たから、確実に彼と近づけているという自信があったからだ。
ベルを鳴らすと、ドタドタという音が聞こえて来た。そんなに慌ててどうしたんだと立夏が思っていたら、勢い良く扉が開けられた。
「あ、やあ。久しぶりだね」
出て来たのは太陽の姉――夏乃だ。彼女は普段では見られないほどに焦っていて、立夏と清涼はその様子に面食らった。
「あの、太陽くんいますか? 一緒にお夏祭りに行く約束をしていたんですけど、来てなくて、心配になって迎えに来たんです」
「心配してくれてありがとう。そうだな、ちょっと話したいから、上がってくれるかな? お茶でも飲んでいってくれ」
夏乃の対応に、再び立夏は面食らった。太陽が家にいると思っていたから。それに夏乃の伏せ目がちな表情に嫌な予感がした。
「あ、あ、」
「ありがとうございます!」
立夏が何も言えないでいると、清涼が元気良くお礼を言って夏乃の後に続いた。
「ほら、行こうぜ」
清涼が右手を差し出してくれていた。
「う、うん」
立夏はその手を掴んで、太陽の家の中へと入る。
「そんな心配すんなよ。太陽なら大丈夫だ。ほら、それに、俺もついてる」
そう言って、清涼は下手くそな笑みをみせた。
居間に通されて、テーブルに座る。夏乃が麦茶をお盆に乗せてやって来た。
「まあ、それ飲んでよ」
夏乃がコップをテーブルに置いて、椅子に座った。
「太陽を呼びに来てくれたんだよね。うーん。そうだな。なんて言えばいいのかな」
夏乃は顎に手を当てて、言葉を選んでいる様だった。
「まあ、単刀直入に言っちゃうと、あいつは逃げ出したんだよね」
立夏は自分の頭が真っ白になるのが分かった。自分達はまた避けられたのかと。それどころかもしかすると今まで嫌々付き合ってくれていたののかもしれない。そう思うだけで、胸が締め付けられる。
「え、それって……」
「ああ、勘違いしないで欲しい。あいつはちゃんと夏祭りには行ったんだよ。それで、まあ、なんて言うのかな、戻ってこないといけない事態になったんだ」
安心してくれと言わんばかりに、夏乃は微笑んだ。
作り物めいた笑みだ。この人でもこんな笑顔を作る時があるのかと、立夏は思う。
夏乃の言葉を聞いて、立夏はひとまず胸を撫で下ろした。
それと同時に、疑問に思う。それなら、なぜ太陽は逃げ出してしまったのかと。
「あのー。家に戻って来たのと、逃げ出したのには何か関係があるんですか?」
立夏が思っていた疑問を、清涼が口に出してくれた。
そう問われた夏乃は困った様な顔をしていた。何と言えばいいのか分からないというよりも、どう誤魔化そうかと考えている様だった。
「うーん。どうすればいいのかな……」
夏乃がガシガシと頭をかいていた時だ。ガララッという音と共に居間の戸が開けられた。
「「――――っ!!!」」
入って来た人物の姿を見て、立夏と清涼は息を呑んだ。
清涼は瞳を見開いて、立夏は口元を手で覆っていた。
夏乃も、天井を仰いで目元に手を当てている。
部屋に入って来たのは、青井花火だ。
花火はとても深刻そうな表情で壁にもたれかかるようにして立っていた。
彼女は上着を着ておらず、上は下着のみの格好だ。
正確には、下着で隠れているはずの胸が、半分存在していなかった。
彼女の半身はもう既に、透化病の魔の手に侵されているということだ。
「どうしましょう……ついに身体の半分が……」
震える声で、花火は呟いた。言ってから、清涼と立夏の存在に気がつく。
花火は小さく声を漏らして、上半身を隠すようにしゃがみ込んだ。
「こ、これ、どういう……」
理解が追いつかないといった様子で立夏が瞳を泳がせた。目のやり場に困ったのだ。最後には縋るようにして清涼に視線を送った。
「どうって、言われても、俺にも分からないよ」
清涼も信じられないといった様子だった。説明してくださいという思いを込めて夏乃に視線を送る。
夏乃にとって、ここで花火が起きてくることは予想外の出来事だった。花火の身体は現在、上半身は胸の半分まで、下半身は太腿までが透化病の魔の手に侵されている。
身体を拭いている時にそれは確認していた。
だから、起きて来た時に何と声をかけるべきか考えていたのだが、最悪の形で花火が目覚めてしまった。
花火自身も焦って誰かに縋り付きたかったのだろう。普段では取らないような行動を取ってしまった。
清涼と立夏は太陽の捜索を頼むために家に上げた。失踪の理由は花火関連だと嘘と本当を混ぜて上手く話すつもりだったのだが、花火が起きてきた事により計算が全て崩れた。
「花火ちゃん。良いよね?」
夏乃は立ち上がってから壁にかけてあったカーディガンを取る。そのまましゃがみ込む花火のところまで歩いて行き、彼女にカーディガンを羽織らせた。
花火は夏乃の言いたい事をすぐに理解したらしく、こくんと頷いた。
「ありがとう。後は私が説明しておくから、花火ちゃんは今はゆっくり休んでおいて」
二階に連れて行こうと夏乃が立ち上がると、花火はかぶりを振った。
「いえ、大丈夫です。この事を説明するのに、私がいないというのはいけない気がしますから」
花火の力強い瞳に見つめ帰され、夏乃は少したじろいだ。
「そうか……そうだね。じゃあ、太陽の事も含めて、説明するよ」
夏乃はそう言ってから、立夏と清涼の方へ向き直った。