更に二週間が過ぎた。文化祭の準備も進んでいて、学校の装飾などもかなり完成して来ている。というより、文化祭まであと三日しかない。
立夏と清涼はそれぞれの友人と一緒に準備に取り組んでいた。
ここでの清涼、立夏はとても元気そうに見える。清涼は掃除ロッカーの前でモップを使って友人にちょっかいを出していた。立夏も飾り付け用の花を作りながら友人と談笑している。
今日も学校の準備が終わったら帰ってバンドの練習だ。
文化祭の準備が終わり、家に帰って花火を連れてからスタジオへと向かう。
あれから花火のゲージはあとタンク一つ分のところまで来ていた。しかし、そのタンクが溜まる気配が一向にない。
きっとライブが上手くいけば溜まるはずだと、今はそう信じて頑張るしかない。
坂を下っていき、海沿いの道を歩いて行く。途中で葉月の墓の前を通った。今朝供えた線香の煙はもう上がっていなかったが、供えたお菓子は喜んで食べてくれているだろうか。ここの前を通ると頑張ろうという気になる。葉月が力を貸してくれているのかもしれない。
スタジオに入ると、そこにはすでに清涼と立夏がいた。
「あ! 太陽達が来たよ!」
僕達が扉を閉めると立夏が小走りで駆け寄ってきた。
「じゃあ練習始めよっか!」
立夏が僕の腕を引いて行く。その際に清涼と目が合ったが、すぐにそらされた。
予約の確認をした後、すぐに練習を始めた。
「じゃ、いくぞー」
清涼がスティックをカッカッカッと叩くのが合図となって、曲がスタートする。
リズムに乗って演奏していると分かることがある。個々の技術はそれなりに高くなってきたから、人前でやっても恥ずかしくない水準には達していると思う。だけど、何かが足りない。何か物足りなさがあるんだ。音楽がうまく噛み合っていないような、不調和な感じがする。それはきっと、僕達の間で不穏な雰囲気が漂っているからだろうか。それとも、花火や清涼が暗い顔をしているからだろうか。
どちらにせよ、花火が暗いのは僕のせいだ。僕がもっと、彼女を元気付けなければならないんだ。
「今のは今までで一番良かったね」
演奏が終わってから、立夏が大きな声をあげた。お通夜みたいな周りの雰囲気を気遣ってか、無駄に声を張っていた。そんな立夏も空元気なのが分かってしまう。
少しでも場を和ませようと気を使ってくれている。
立夏は滴り落ちる汗をタオルで拭きながらある提案をした。
「ねえ、明日夏祭りがあるって知ってるでしょ? 気分転換も兼ねてみんなで行かない?」
「お、いいね」
その提案に僕は賛成する。事実、今の僕達の演奏技術は一日やそこらじゃどうすることもできない水準にまで達している。
ここらで休息を入れて、みんなでパーっと気分をリフレッシュするのがいいかもしれない。
夏祭りに行けば花火だって最後のゲージが溜まるかもしれない。いや、絶対に溜めさせる。もう彼女には時間がないんだ。一刻も早く、違う世界に行かなければならない。それに、その世界に透化病の治療法があるとは限らない。そしたら、彼女はまたゲージを溜めなければならない。時間は早い方がいい。
そうだ。例えもう、一生会うことができなくなったとしても……早い方がいい……。それが、花火のためなんだから。
こんなことを考えてしまったからだろう。無意識のうちに下唇を噛み締めていた。
そんな僕の様子を心配してくれたのか、花火が不安気な顔をして僕を見ていた。咄嗟に笑顔をつくる。
ぎこちない笑みになってなければいいんだけどな。
「やった。太陽来てくれるんだね! みんなも行くでしょ?」
そんな僕らのやり取りを知ってか知らずか、立夏が僕に飛びついて来た。
僕は助けを求めるように清涼の方に視線を向ける。清涼は清涼で、悲しそうに目を細めて立夏を見つめていたが、僕の視線に気がついて焦ったように笑顔を作った。
「ああ、俺も行くよ。丁度気分転換もしたかったしな」
「清涼もありがとう。明日は楽しもうね」
立夏は清涼の方へ行って彼の肩を叩いた。
「もちろんだ。ライブ前に気分をスッキリさせないとな!」
清涼はとびきりの笑顔を弾けさせた。それでも、瞳だけは笑ってないように見える。
「花火ももちろん来てくれるよね? ほら、前に言ってたとびきり綺麗な花火が打ち上がるから、行こうよ」
僕は花火の元まで歩いて言った。
少しでも、彼女が元気を取り戻してくれたらと思う。そして、感情が溜まってくれたらとも……思って……いる。
「あっ! はい! 行きましょう!」
「楽しみにしててね。すっごい大きな花火が見れるからさ」
僕は両手を目一杯広げて大きさを表した。
そんな僕達の間に立夏が割って入る。
「よし! じゃあみんなでパーっと気分をリフレッシュさせよう! 明日の八時に海の家の前に集合で!」
約束してから、僕達は解散した。
立夏と清涼に手を振って別れてから花火の横まで走って行く。
明日こそは花火に喜びの感情を与えるんだ。
立夏と清涼はそれぞれの友人と一緒に準備に取り組んでいた。
ここでの清涼、立夏はとても元気そうに見える。清涼は掃除ロッカーの前でモップを使って友人にちょっかいを出していた。立夏も飾り付け用の花を作りながら友人と談笑している。
今日も学校の準備が終わったら帰ってバンドの練習だ。
文化祭の準備が終わり、家に帰って花火を連れてからスタジオへと向かう。
あれから花火のゲージはあとタンク一つ分のところまで来ていた。しかし、そのタンクが溜まる気配が一向にない。
きっとライブが上手くいけば溜まるはずだと、今はそう信じて頑張るしかない。
坂を下っていき、海沿いの道を歩いて行く。途中で葉月の墓の前を通った。今朝供えた線香の煙はもう上がっていなかったが、供えたお菓子は喜んで食べてくれているだろうか。ここの前を通ると頑張ろうという気になる。葉月が力を貸してくれているのかもしれない。
スタジオに入ると、そこにはすでに清涼と立夏がいた。
「あ! 太陽達が来たよ!」
僕達が扉を閉めると立夏が小走りで駆け寄ってきた。
「じゃあ練習始めよっか!」
立夏が僕の腕を引いて行く。その際に清涼と目が合ったが、すぐにそらされた。
予約の確認をした後、すぐに練習を始めた。
「じゃ、いくぞー」
清涼がスティックをカッカッカッと叩くのが合図となって、曲がスタートする。
リズムに乗って演奏していると分かることがある。個々の技術はそれなりに高くなってきたから、人前でやっても恥ずかしくない水準には達していると思う。だけど、何かが足りない。何か物足りなさがあるんだ。音楽がうまく噛み合っていないような、不調和な感じがする。それはきっと、僕達の間で不穏な雰囲気が漂っているからだろうか。それとも、花火や清涼が暗い顔をしているからだろうか。
どちらにせよ、花火が暗いのは僕のせいだ。僕がもっと、彼女を元気付けなければならないんだ。
「今のは今までで一番良かったね」
演奏が終わってから、立夏が大きな声をあげた。お通夜みたいな周りの雰囲気を気遣ってか、無駄に声を張っていた。そんな立夏も空元気なのが分かってしまう。
少しでも場を和ませようと気を使ってくれている。
立夏は滴り落ちる汗をタオルで拭きながらある提案をした。
「ねえ、明日夏祭りがあるって知ってるでしょ? 気分転換も兼ねてみんなで行かない?」
「お、いいね」
その提案に僕は賛成する。事実、今の僕達の演奏技術は一日やそこらじゃどうすることもできない水準にまで達している。
ここらで休息を入れて、みんなでパーっと気分をリフレッシュするのがいいかもしれない。
夏祭りに行けば花火だって最後のゲージが溜まるかもしれない。いや、絶対に溜めさせる。もう彼女には時間がないんだ。一刻も早く、違う世界に行かなければならない。それに、その世界に透化病の治療法があるとは限らない。そしたら、彼女はまたゲージを溜めなければならない。時間は早い方がいい。
そうだ。例えもう、一生会うことができなくなったとしても……早い方がいい……。それが、花火のためなんだから。
こんなことを考えてしまったからだろう。無意識のうちに下唇を噛み締めていた。
そんな僕の様子を心配してくれたのか、花火が不安気な顔をして僕を見ていた。咄嗟に笑顔をつくる。
ぎこちない笑みになってなければいいんだけどな。
「やった。太陽来てくれるんだね! みんなも行くでしょ?」
そんな僕らのやり取りを知ってか知らずか、立夏が僕に飛びついて来た。
僕は助けを求めるように清涼の方に視線を向ける。清涼は清涼で、悲しそうに目を細めて立夏を見つめていたが、僕の視線に気がついて焦ったように笑顔を作った。
「ああ、俺も行くよ。丁度気分転換もしたかったしな」
「清涼もありがとう。明日は楽しもうね」
立夏は清涼の方へ行って彼の肩を叩いた。
「もちろんだ。ライブ前に気分をスッキリさせないとな!」
清涼はとびきりの笑顔を弾けさせた。それでも、瞳だけは笑ってないように見える。
「花火ももちろん来てくれるよね? ほら、前に言ってたとびきり綺麗な花火が打ち上がるから、行こうよ」
僕は花火の元まで歩いて言った。
少しでも、彼女が元気を取り戻してくれたらと思う。そして、感情が溜まってくれたらとも……思って……いる。
「あっ! はい! 行きましょう!」
「楽しみにしててね。すっごい大きな花火が見れるからさ」
僕は両手を目一杯広げて大きさを表した。
そんな僕達の間に立夏が割って入る。
「よし! じゃあみんなでパーっと気分をリフレッシュさせよう! 明日の八時に海の家の前に集合で!」
約束してから、僕達は解散した。
立夏と清涼に手を振って別れてから花火の横まで走って行く。
明日こそは花火に喜びの感情を与えるんだ。