そのあと僕達は夕飯を食べ、今日あった出来事を姉さんに報告した。

 姉さんはそれを聞いてとても喜んでいたし、青井花火の喜びのゲージも二つ目のタンクが溜まって、三つ目のタンクに突入していた。

 夕飯のあと僕達はそれぞれシャワーを浴びて、寝室へと戻っていった。

 青井花火が夕食のあと、何種類もの薬を飲んでいるのを見て、彼女が本当に病気にかかっているということを、再認識させられた。

 明日に備えて早く寝ようと布団に入ったものの、色々と考えてしまい、中々寝付けない。

 気分を変えるために僕は一階へと下りた。

 居間に入ろうと戸を開けると、風に乗ってヤニの匂いが流れてくる。

「姉さん。何回も言ってるけど、窓を開けたまま煙草を吸ったんじゃ意味ないよ。煙が全部部屋に流れてきてる。ほら、それに上で病人が寝てるじゃないか」

 言いながら、僕は冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、コップへと注ぐ。

「おお悪いな。たしかに病人いるんじゃよくないわな」

 ベランダで煙草を吸っていた姉さんが振り返って言う。姉さんは相変わらずの下着姿で口から煙を吐き出した。

 煙草を灰皿に押しつけた後、空き缶の中へ捨て、部屋へと戻ってくる。

「無事に仲良くなれたようでよかったよ」

 姉さんは椅子を引いて座り、僕に水を一杯頼んだ。

 僕はミネラルウオーターをもう一杯分注いでから姉さんの前に座る。

「さて、今日の感想はどうだった? 悪くなかっただろ」

 姉さんは机に両肘をついており、その上に顎を乗せている。

「はっきり言ってとても楽しかったよ」

「うんうん。そう思ってくれてよかったよ」

 僕の言葉を聞いて、姉さんは何度も頷いて笑顔を見せてくれた。

「でも、青井花火は病気なんだよな。姉さん……僕は怖いんだ。このまま彼女を亡くしてしまったらどうしようって」

 ポツリと、本音が溢れてしまった。胸の奥に溜まっていたわだかまりのようなものが溢れてくる。

「僕は……僕は怖いんだ。また……またあんな風に大切な人が消えていったらどうしようって……そう思うと怖くて怖くて仕方ないんだ」

 目頭が熱くなる。自然と、拳を握る手に力がこもってしまう。堰を切ったように涙が止まらなくなってしまった。

 僕は慌てて目元をつまみ、涙を無理やり止める。でも、涙は止まってくれなかった。

 おかしい。こんなこと言うつもりなんて全くなかったのに。

「立夏と清涼にだって気を許してしまった。彼らだって、いついなくなるか分からないのに。葉月みたいに、急にいなくなっちゃうかもしれないんだ……」

 姉さんは僕の言葉を静かに聞いてくれていた。そして、僕が落ち着くのを待ってから口を開く。

「お前の不安は簡単に分かるって言っちゃいけないものだってことは分かってる。でもな、これだけは絶対に言えるぞ」

 姉さんは一度ミネラルウォーターに口をつけてから続けた。

「今のままのお前でいることを葉月ちゃんは望んでない。絶対にそうだ」

 姉さんは僕の眼をじっと見つめている。僕は頷いた。僕だって本当は分かっていたんだ。このままじゃいけないってことくらい。でも、怖かった。怖くて怖くて仕方なかったんだ。もう一度あの輝かしい日々を失いたくなかった。またああやって、傷ついて打ちのめされるのが嫌だった。

「私は言ったろ。これがきっかけになってくれればいいって。花火ちゃんはお前が閉じこもってた暗い部屋を開けてくれたんだよ」

 姉さんの声に、より一層力が込められる。

「後はお前がその部屋を出るかそのまま閉じこもるかのどちらかだ。ただ、私はお前がやるべきことは一つだけだと思ってるけどな」

 そこで姉さんは一拍開けて続けた。

「太陽。それはなんだと思う?」

 姉さんは首を傾け瞳を細めて僕を見ていた。

 僕がやるべきこと。それは――それは――

「彼女を、救うことだと思う」

 姉さんはにこりと微笑んで僕を見ている。慈悲深い、落ち着いた眼差しだった。

「うん。それが太陽の出した本当の答えだったら、そうするべきだ」

 姉さんはそう言ってからまたミネラルウォーターを一口だけ飲んだ。

「良し。じゃあ、今日の話をもう一度詳しく教えてよ」

 姉さんの最後の笑みはとても無邪気なものだった。